以前紹介した体位変換補助パッド(床ずれナース)は、現在も母が使用しており、個人的にも気に入っている製品です。
記事はこちら→体位交換に便利『床ずれナース・体位変換補助パッド』
このシリーズを発売している黒田株式会社について調べてみると、敷きパッドだけでなく、フュージョンという素材を使用した製品が数多くあることを知りました。
同じ素材が様々な介護用品に採用されているということは、それだけ介護現場との相性が良い理由があるはずです。
前回の記事では、敷きパッドの特徴とともに、フュージョンの特長を簡単に紹介しましたが、それらはどのような構造によって生み出されているのでしょうか。
今回は、旭化成せんいの特許の内容を参考に、「フュージョン」という立体編物について解説していきます。
なお、本記事は筆者個人の見解・調査に基づいた内容です。
内容の正確性を保証するものではなく、紹介する製品の購入・使用は必ずご自身の判断と責任で行ってください。
また、記事中の製品リンクにはアフィリエイトを含む場合があります(PR)。
本記事の英語版はこちら→How Fusion Works: The 3D Knitted Material Used in Care Products(準備中)
フュージョンとは
フュージョンは、旭化成グループが開発した三次元立体編物です。

一般的な布は一枚の平らな生地ですが、この素材は表と裏の二枚の編地を、多数の連結糸で立体的につないだ構造になっています。
イメージすると、二枚の布の間にいくつもの細い柱が立っているような構造です。

旭化成のHPには、以下のような特長が記載されています。
- クッション性:圧縮特性に優れているとされています。
- 通気性:表裏の編地がメッシュであり、それらを単純に重ねるのではなく立体的につないでいるため、空気が通り抜けやすい構造となっています。
- 乾きやすさ:素材の残留水分率がほとんどないため早く乾きます。
- 軽量:厚みがあるのに空気層が多いため軽い素材です。
これらの特長の中で、通気性や軽さは構造から比較的イメージしやすいのですが、クッション性については「なぜ押されても元の形に戻るのか」という点が少し分かりにくく感じました。
私は最初、生地を重ねているからクッション性があるのだと思っていました。
しかし調べてみると、そこには別の工夫がありそうです。
そこで、そのヒントを探るために、旭化成せんいの立体編物に関する特許明細書を読んでみました。
特許からみるフュージョンの仕組み
今回参考にした特許が「フュージョン」そのものの特許であるとは確認できていません。
しかし、旭化成せんい株式会社による出願であり、公開されているフュージョンの特徴と共通点が多いため、ここでは素材の仕組みを理解する参考として取り上げます。
この特許で扱われているのは、表と裏の二層の編地を、連結糸でつないだクッション材用の立体編物です。
発明の目的は、クッション材として使える適度な弾力感を持ち、さらに厚み方向に繰り返し圧縮されても、元の形に戻りやすい立体編物を実現することにあります。
弾力性のある特殊な糸を使っているのかと思っていましたが、特許を読むと、注目すべきは素材そのものではなく、構造の工夫でした。
そのポイントとなるのが、表裏の編地をつなぐ連結糸です。
立体編物が押されると、この連結糸はバネのように曲がり、荷重がなくなると元の形へ戻ろうとします。
つまり、この素材のクッション性は、綿などが中に詰まっていることで生まれるものではなく、二枚の編地の間にある多数の連結糸が「曲がって戻る」ことで生み出されていると考えられます。
特許では、この戻りやすさを示す言葉として「ヒステリシスロス」が使われています。
これは、押したエネルギーのうち、摩擦や熱などに変わって失われ、元に戻る力として返ってこなかった割合のことです。
ヒステリシスロスを小さくするため、つまり押しても元に戻りやすくするため、この発明では連結糸に以下のような工夫が示されています。
- 素材:連結糸には、曲げた後も元の形に戻りやすいモノフィラメント(1本の繊維でできた糸)を用いることが示されています。
- 曲がり方:連結糸をあらかじめ適度に曲がった状態で配置し、押された際には無理なく変形し、荷重がなくなると元の形へ戻りやすい構造が提案されています。
- 配置:連結糸を斜め方向やクロス状(X字状)、トラス状(V字の骨組み状)に配置することで、表裏の編地を安定して支えながら荷重を分散し、立体構造を維持しやすくする工夫が示されています。
こうした工夫により、連結糸が荷重を受け止めながらも元の形へ戻りやすくなり、ヒステリシスロスを小さくし、繰り返し圧縮されても弾力感を維持しやすい立体編物を目指した発明であると考えられます。
介護用品としてのフュージョンのメリット
前回のフュージョンを使った製品の記事(体位交換に便利『床ずれナース・体位変換補助パッド』)では、実際に使用した感想として、
○適度な弾力があり寝心地が良いこと
○生地がしっかりしていてしわになりにくいこと
○通気性が良く、さらっとした肌触りで乾きやすいこと
○介助時にも扱いやすいこと
などを紹介しました。
当時は「使ってみて感じた特徴」としてまとめましたが、今回特許を参考として読んでみると、その理由が素材の構造から少し見えてきました。
特許を読んで見えてきたメリット
まず、この素材は一枚の布でありながら、立体構造によって適度なクッション性を持っています。
もちろん、マットレスやクッションのように体圧分散そのものを目的とした製品ではありません。
しかし、シーツやパッドとして身体と接する面に使用する素材自体に適度な弾力があることは、局所的な圧迫を和らげたり、肌にべたっと張り付く感じを軽減したりすることにつながるのではないかと思います。
また、前回「しわになりにくい」と感じた点も、押されても元の形に戻りやすい立体構造によるものだと考えられます。
介護現場では、シーツやタオルのしわが皮膚への刺激や局所的な圧迫につながることがあります。
そのため、素材自体が形を保ちやすいことは大きなメリットです。
さらに、立体構造の中には空気層が多く存在するため、メーカーが説明しているように通気性が高く、乾きやすいという特徴があります。
汗や湿気がこもりやすい寝たきりの方では、蒸れは皮膚トラブルの一因となります。
そのため、空気が通りやすく、洗濯後も乾きやすい素材は、日々のケアを行う立場から見ても扱いやすい素材だと感じました。
実際に使って感じたこと
実際に母もフュージョンを使った敷きパッドを使用しています。
背中の汗はバスタオルを敷いていたときと比べるとべたつきにくく、湿気や熱もこもりにくいように感じます。
また、洗濯すると脱水後にはすでにほとんど水を含んでおらず、乾きやすいです。
繰り返し使用したり洗濯したりしていますが、今のところ素材のへたりは気になっていません。
介護で使用するものは、汚れることを前提に使うため、洗えることが必須です。
そして家庭ならともかく、施設などでは洗濯表示を細かく確認して洗い分けることは難しく、頻繁に洗濯されます。
そのため、乾きやすさや耐久性も、介護用品としての扱いやすさにつながる重要な特徴だと感じています。
おわりに
今回調べてみて印象的だったのは、クッション性が重ねた厚みだけではなく、構造から生まれていたことです。
普段は製品そのものに目が向きがちですが、その背景にある素材の仕組みを知ることで、介護用品の見方も少し変わったように感じました。
次回は、このフュージョンを使用した『リハビリ用スティック(床ずれナース®)』を取り上げ、拘縮した手のケアについて考えてみたいと思います。
※本記事の内容は参考情報であり、正確性を保証するものではありません。
製品の購入や使用はご自身の判断と責任でお願いいたします。
本ブログでは、主に福祉用具や医療品が、現場でどのように受け止められるか、どのような場面で価値を発揮しやすいかといった点にも目を向け、医療・介護の現場の視点から、企業・事業者と現場をつなぐ橋渡しを意識して発信しています。
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参照
旭化成せんい株式会社「クッション材用立体編物」(特開2005-179842)
黒田株式会社 http://www.t-nurse.com/pagepad.html
旭化成アドバンス https://www.asahi-kasei.co.jp/advance/jp/business/apparel_and_fiber/cubit.html

