現在関わっている施設や在宅の現場ではコロナ禍からか、薬が手に入りにくくなるということが時々あります。
最近ではイソジンシュガーパスタという褥瘡の処置に使っている外用薬の入荷が滞っているという状況。
他の軟膏を調べる中、改めて、精製白糖を含む外用薬が創傷治療でどのように使われているのかに興味を持ちました。
この記事では、精製白糖を含む外用薬の作用機序と、類似した軟膏に関する特許の内容に触れながら解説していきます。
※本記事は、個人の経験や調査に基づき執筆しており、情報の正確性や最新性を保証するものではありません。
※本記事での「砂糖」は、家庭で使う砂糖そのものを傷に使うという意味ではなく、医薬品に配合される精製白糖を指しています。
皮膚の構造・機能
まずは、皮膚について簡単に説明します。
皮膚とは、体表面を覆って体内と体外を隔てる臓器です。
外部からの保護、体温調節、体液保持、感覚受容体という機能を持っています。
皮膚の構造は、表皮、真皮、皮下組織の三層で形成されています。

- 表皮: 最外層であり、バリア機能を果たします。
- 真皮: 中間層で、血管や神経が豊富に存在します。よく知られているコラーゲンが存在するのはこの層です。
- 皮下組織: 最内層で、脂肪細胞が多く、クッションの役割を果たします。
褥瘡とは
褥瘡とは、一般的には床ずれと呼ばれています。
長時間同じ姿勢で皮膚への圧力がかかり続け血行障害が起こることで発生する皮膚損傷です。
一般的な傷は、擦ったり切ったりという外部からの衝撃や摩擦によって皮膚が直接的に傷つくことで起こるものです。
褥瘡はそれらとは違い、長時間の圧迫により血流が途絶え、酸素や栄養分が不足してその部分の細胞が死んでしまうことでできます。
特に寝たきりの患者さんに多く見られ、圧力が集中する部位(お尻やかかとなど)に発生しやすいです。
イソジンシュガーパスタ
看護師で褥瘡のケアに携わったことがあれば、イソジンシュガーパスタを知らない看護師はいないくらい、褥瘡の治療によく使用されている軟膏です。
イソジンシュガーパスタの主成分はその名の通りイソジンとシュガー、成分名ではポビドンヨードと精製白糖が含まれています。
ポビドンヨードは殺菌作用を有し、精製白糖は創傷治癒過程に関係すると考えられており、滲出液の多い褥瘡などに用いられます。
精製白糖と創傷治癒との関連
砂糖の種類
糖類は炭水化物の一種で、単糖類、二糖類、多糖類に分類されます。
• 単糖類: 最も基本的な糖で、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトースがあります。 • 二糖類: 二つの単糖が結合したもので、スクロース(グルコース+フルクトース)、ラクトース(グルコース+ガラクトース)、マルトース(グルコース+グルコース)が一般的です。 • 多糖類: 多くの単糖が結合して形成されたもので、デンプン、セルロース、グリコーゲンがあります。
精製白糖は、主にスクロース(ショ糖)です。グルコースとフルクトースが結合した二糖類です。

ショ糖はあの白くて甘いお砂糖です。
しかし甘味料としてだけでなく創傷治療においてもその特性が活用されています。
傷に効く理由
イソジンシュガーパスタの添付文書には、
『白糖の創傷治癒作用は、局所的浸透圧の上昇による浮腫軽減及び線維芽細胞の活性化に基づくと考えられている』
と記載されています。
その効果を具体的に説明していきます。
浸透圧の高さ
浸透圧については、こちらの記事でも解説しています。
浸透圧とは、溶液中の水が半透膜を通じて移動する際に生じる圧力であり、溶けているものの濃度差によって生じます。
梅ジュースや梅干しを作ったことのある人ならば、浸透圧によって起こる現象を見たことがあるでしょう。
梅シロップ作る際に氷砂糖を梅と一緒に入れると、浸透圧の働きで、梅の果肉から砂糖が濃い外側に水分が引き出され、結果、しわしわになった梅がシロップに浸された状態になります。
この現象は梅の細胞膜が半透膜として機能して起きます。
精製白糖を含む外用薬では、局所的な浸透圧の上昇により、創部の浮腫軽減に関係すると考えられています。
そして、創部の浮腫(傷口の腫れ)が引くことで、次のように働く可能性があります。
浮腫軽減→周囲の組織への圧迫が軽減→血流改善→創部に酸素や栄養分が創部に巡りやすくなる
つまり、血流が改善されることで傷の治りに関連していると考えられます。
線維芽細胞の活性化
砂糖が線維芽細胞を活性化することも、傷の治りを助けます。
繊維芽細胞とは、皮膚の真皮に存在する細胞です。


繊維芽細胞は、創傷治癒の際に増殖し、治癒に関わります。
精製白糖は、創傷治癒過程に関わる線維芽細胞の活性化にも関係すると考えられています。

上のイラストのように皮膚がえぐられるような深い傷の治癒プロセスでは、欠損した組織を補填する肉芽組織が形成されます。
この肉芽形成は線維芽細胞の増殖によって起こります。
そして肉芽組織が新しい組織に置き換わり最終的に傷が閉じ、治癒が進みます。
そのため、精製白糖を含む外用薬は、創傷治癒過程を支える目的で用いられています。
ヨードコート軟膏
イソジンシュガーパスタ同様に、感染リスクが高く滲出液の多い創部に使用する軟膏としてヨードコート軟膏があります。
実はヨードコートは今まで使う機会がなかったため、不足しているイソジンシュガーパスタと同じように褥瘡処置で使われる軟膏にはどのような特徴があるのか、関連特許をもとに調べてみました。
従来の軟膏・褥瘡治療の課題
・従来のショ糖を使用した軟膏は、滲出液のドレナージ効果はあるが、滲出液の吸収作用は少なく、滲出液が漏れ出す問題があります。
・この問題解決したゲル状物質を使用した軟膏も、ゲル状の物質が膨潤するのみで一塊にならないため容易に除去できません。
・洗浄の手間と頻回なガーゼ交換は患者さんや治療する看護師治療の負担となります。
実際のケアで感じること
褥瘡は短時間でも発生し悪化しますが、治療は長期戦。
毎日処置を行い地道に治すしかありません。
実際イソジンシュガーパスタを使用していて困ることは、軟膏が滲出液を吸収して、ガーゼからイソジン色の液が染み出すことです。
イソジンの色素って取れにくいんですよね。
患者家族には、排泄物の色にも見えることもあり気を使います。
そのため、ガーゼで保護した上に更に吸水パットを巻くことがありますが、蒸れるので患者には不快だと思います。
また、ポロポロになりまとまらないので扱いにくいことがあります。
軟膏の特徴
この特許では、滲出液によって軟膏がゲル化する構成が提案されており、従来の軟膏で課題とされていた扱いにくさや滲出液への対応を改善することが目的として示されています。
この特徴生んでいるのが、水溶性高分子と架橋剤です。
架橋された水溶性高分子が創部から出る滲出液と反応してゲル化します。
特許では、軟膏がゲル状になることで、創傷面の保護、滲出液や壊死組織の保持、除去のしやすさにつながることが期待されています。
また、滲出液を保持しやすい構造にすることで、処置時の扱いやすさを高めることが目指されています。
糖類や殺菌剤は単独ではゲル化しませんが、それらの成分を添加しても軟膏が一塊となって容易に除去できるという特徴があります。
このように、特許では、糖類や殺菌剤を含みながら、ゲル化によって扱いやすくなる構成が説明されています。
ゲル化メカニズム
特許によると、水溶性高分子としてはポリアクリル酸ナトリウムが最適であると記載されています。
この物質によるこのゲル化の仕組みを調べてみました。
ポリアクリル酸ナトリウムは、高吸収性ポリマーとして紙おむつなどに使用されている物質です。
その高い吸水力は、静電反発と浸透圧の二つの効果によるものです。
まず構造から見てみましょう。
ポリアクリル酸ナトリウムはアクリル酸ナトリウムがたくさんつながってできた高分子です。

架橋剤が追加されることで、鎖状の高分子が三次元の網目構造となります。

ポリアクリル酸ナトリウムの官能基(-COONa)は親水性で、水に浸すと、-COO⁻とNa⁺に電離します。
すると-COO⁻が電気的に反発し合い、網目が広がることで内部に水を保持するスペースが多くできます。

さらに、網目構造の中のNa⁺濃度は、外の水よりも高くなっています。
そのため、Na⁺の濃度差をなくそうと、水が中に入っていきます。
つまり、浸透圧の働きによって多くの水を吸収しているんですね。
このようなメカニズムにより、ポリアクリル酸ナトリウムは水を吸収してゲル状になります。
この吸水性は紙おむつなどで応用されており、創傷ケア製品では滲出液を保持する目的で利用されることがあります。
おわりに
褥瘡の軟膏はとてもたくさん種類があり、お恥ずかしながら詳しい薬効までは知らないものや使用したことがないものもあります。
軟膏など薬については、もちろん医師の指示のもと、薬剤師とも相談していくのですが、どんなメカニズムなのかまで知っているかどうかで、看護師としても話せる内容が変わってくると思います。
現場でのケアのためにも、化学の知識をもっと身につけたいと改めて感じました。
※本記事は、特定の治療や医薬品の使用をすすめるものではありません。創傷処置や外用薬の使用については、必ず医師・薬剤師などの専門職の指示に従ってください。
参照
岡庭豊(2020),病気がみえる 皮膚科,メディックメディア
日本褥瘡学会:https://www.jspu.org/general
特開2004-083557, 創傷用外用剤,株式会社 メドレックス,2004/3/18
濱本英利(2007),「褥瘡患部でゲル化する軟膏剤 ヨードコート軟膏α9%の開発」,薬剤学67, No.1
日本触媒:https://www.shokubai.co.jp/ja/products/detail/polyacrylic-acid-guide/
ChemーStation ポリアクリル酸ナトリウム:https://www.chem-station.com/molecule/2016/06/sodium-polyacrylate.html
https://www.saishunkan.co.jp/domo/column/skin-troubles/skin-structure-illustration/


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