Purple urine bag syndrome(PUBS)紫蓄尿バッグ症候群、とは、膀胱留置カテーテルと蓄尿バッグが紫に染まった状態のことをいいます。
病院ではあまり見ませんでしたが長く経過をみている在宅ではよくあります。
本当にきれいな紫色になり、初めて見たときはびっくりしました。
何が原因か?いう程度の知識はあったものの、詳しくは知らず。ちょうど排泄の研修で話題になっておりこの化学変化っぽい現象に興味がわいたため、少し詳しくみてみたいと思います。
原因
原因は尿路感染と便秘です。
カテーテルを留置していると尿路感染を起こして尿に細菌が出やすい状態となります。留置が長期にわたることほとんどの方に細菌尿が認められると言われており、この細菌尿の存在に加えて慢性便秘によってPUBSは引き起こされます。
紫色への変色のメカニズム
便秘により腸内細菌が異常増殖します。
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腸内細菌の持つトリプトファナーゼにより、トリプトファンがインドールに分解されます。
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腸から吸収されたインドールは肝臓でまずインドキシルに変換され、その後硫酸と結合してインドキシル硫酸になります。この変化により物質が極性を持ち水溶性となるため、尿とともに排出されやすくなります。
引用:https://www.shutterstock.com/es/image-vector/pilocarpine-alkaloid-drug-molecule-used-treatment-2050235681
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インドキシル硫酸が尿中に排泄されます。
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尿路感染症を起こしていると、尿中細菌の産生するスルファターゼ、フォスファターゼという酵素の作用でインドキシル硫酸がインドキシルになります。
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インドキシル自体が酸化されることでインジゴ(2つのインドキシル分子が酸化的に結合)とインジルビン(インドキシルとその酸化物イサチンが結合)が生成されます。インジゴは青色、インジルビンは赤色の色素成分で、混ざると紫色になります。これによって、尿バッグが紫色に染まります。
引用:https://nisimoto.files.wordpress.com/2015/06/indican.png
ちなみにこの青色のインジゴは、インディゴブルーで馴染みのある藍染めに使われる染料です。天然のインジゴは 植物に含まれるインジカンが葉緑体に含まれるβグルコシターゼという酵素によって反応が起こり産生されます。
またインジゴは染料以外にも薬品や医学の研究にも使用されているため、人工的にも合成されています。
この現象、尿だけ観察すると肉眼的に色の変化は認めません。
インジゴとインジルピンが生成される酸化反応は尿が体外に出た後で起こります。これらの色素は非極性物質であり水に溶けません。尿の中で固体として存在し、尿がバッグ内のプラスチックの表面に付着し、バッグのみ紫に染まって見えるのです。
アルカリ尿との関係
アルカリ尿はPUBSを引き起こしやすくなる要因の一つです。
正常な尿は弱酸性ですが、さまざまな原因によってアルカリ性に傾くことがあります。
尿路感染もアルカリ尿の原因の一つです。尿路感染を引き起こす細菌が尿中の尿素をアンモニアに分解することによってアルカリ尿を生成します。そしてアルカリ性の尿は、特定の細菌の成長を促進します。
つまり、細菌感染がアルカリ尿の原因になり、そのアルカリ尿が更なる細菌の増殖の原因になり得る、ということです。
そして、増えた細菌の一部の酵素によってトリプトファンは分解され、その結果PUBSの原因となるインジゴとインジルピンを生成します。
また、インドキシルの酸化しやすさにもアルカリ尿が関わります。
アルカリ環境下では、OH-が豊富で、H+を受け取って水を形成しやすい状態、つまり反応物質の脱プロトンが起こりやすい状態です。アルカリ尿中ではインドキシルが酸化されやすく、インジゴ・インジルビンへの変化が起こりやすくなります。
予防・改善法
ぱっと見、ぎょっとするインパクトのある現象ですが、紫に染まったからといって何か治療が必要な状態ではありません。
PUBSという言葉もよく使うわけではなく、「ウロバッグ紫になってます。」と言うくらい。看護師としては排便コントロールや、感染症の症状に気をつけていくことになります。
発熱等の症状が出て、尿カテーテルの詰まりが頻回になるようなことがあると治療の対象となります。とはいえ、管が入っている限り気をつけていても度々尿路感染が起きるもの。
なので、予防が大切です!!
その予防に効果のあるものの一つにクランベリージュースがあります。
クランベリージュース
クランベリージュースはその抗酸化作用で知られています。
クランベリージュースは色々なメーカーのものがありますが、排泄の認定看護師さんの研修で勧められたのはクランベリーUR。
研修では、ジュースを胃瘻から入れた結果PUBSが改善したという事例の報告がありました。毎日1パック、10日程で変化が現れ、3ヶ月程で改善がみられたそうです。
ゼリー、タブレットもあるようです。
クランベリーの2大有効成分はキナ酸とプロアントシアニンです。これらの成分により以下の働きがあります。
- 尿路感染の再発防止:抗酸化作用により尿路への感染菌の付着を防ぎ、尿路感染を防止します。
- 尿臭の軽減:細菌により増えたアンモニアによる刺激臭を軽減します。
- 尿カテーテルの詰まり改善:酸性尿・アルカリ尿とも結石の原因となりますが、尿のpHを下げることでアルカリ性の結石が減少させることが期待できます。それによりカテの詰まりも改善されます。
- スキントラブル改善:皮膚は弱酸性です。アルカリ性の尿の付着によって引き起こされる皮膚トラブルの改善も期待できます。
このジュースのデメリットは値段が高価なところ。高すぎて利用者さんに勧めたことはありません。
美容にもよさそうで自分で買ってみましたが、値段的に続けるのは難しく‥効果はまだ分かりません。
味は酸味がとても強いです。お酢ドリンクより酸っぱい!と感じましたが爽やかさもあり、酸っぱいものが好きなら美味しく飲めると思います。
クランベリージュースはPUBSの予防・改善に役立つ可能性がありますが、一部の薬(ワーファリンなど)の代謝に影響を及ぼすため、摂取を控えた方がいい場合もあります。
高価で味にもくせがあるため、全ての方におすすめ!とうわけではなさそうです
まとめ
Purple Urine Bag Syndromeは、特定の細菌による化学反応で作られた、インジゴとインジルビンという色素によって尿バッグが紫に染まる現象です。特に尿がアルカリ性になったときに起こりやすくなります。
感染症の症状が見られる場合は治療対象となりますが、通常特別な治療は必要ありません。
その現象に対しては尿路感染の予防が重要です。尿路感染の予防にはクランベリージュースの摂取も有効とされています。高価で実証はできていませんが試す価値はありそうです。
調べてみて‥
このように起こるメカニズムまで理解することで、知識がきちんと定着していくと感じました。この反応機構に関しては、今まで学習した知識で反応をある程度は追えたものの、自信を持って説明できるまで至らず。今後の課題です。
参照
認知症病棟で発生した紫蓄尿バッグ症候群(PUBS)6例の生化学的および細菌学的検討 https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/45/5/45_5_511/_pdf/-char/ja
DIクイズ2:(A)蓄尿バッグが紫色になった理由 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/di/digital/201404/535797.html
藍染めを化学の視点から https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/64/8/64_406/_pdf
クランベリーのはたらき、kikkoman、商品パンフレット
公式キッコーマンのクランベリー – 選べるクランベリーシリーズ https://www.kikkoman-shop.com/lp/KK0038/?gclid=Cj0KCQjw4NujBhC5ARIsAF4Iv6fBBtktjkPg2JJke0ZAAoiGow5B1dtyUCb8sh3R4DTzQ7_-15zIyXIaAhDiEALw_wcB&cats_not_organic=true
※この記事の内容は個人の感想、解釈が含まれています。
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