近年、介護の分野において、口腔衛生に関する加算が設けられるなど、口の健康や口腔ケアの重要性は以前より注目されるようになっています。
その中で、日常的なケア用品の一つとして使われるのが、口腔ケアシートです。
見た目は、一般的なウエットティッシュと同じように見えるかもしれません。
しかし実際には、口の中で使うことを前提に、刺激の少なさ、保湿性、拭き取りやすさなどが考えられた用品です。
今回は、新製品や新しい技術を紹介するのではなく、口腔用清拭材に関する特許情報を一つの手がかりとして、口腔ケアシートがどのような視点で作られているのか、また現場ではどのように使われているのかを見ていきます。
なお、本記事は筆者個人の見解・調査に基づいた内容です。
内容の正確性を保証するものではなく、紹介する製品の購入・使用は必ずご自身の判断と責任で行ってください。
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本記事の英語版はこちら→Are All Oral Care Wipes the Same? What Patents Reveal About Their Design(準備中)
口腔ケアシートとは
口腔ケアシートは、ウエットティッシュと見た目は似ていますが、舌、歯ぐき、頬の内側、口蓋など、口の中の粘膜に使うためのシートです。
口腔ケアシートは、製品によって「口腔ケア用ウエットシート」「口腔用ウエットティッシュ」「口腔清拭シート」などと呼び方はさまざまで、多くの製品があります。
口の中の粘膜は、皮膚の表面のように外部刺激から守る厚い層が少ないため、乾燥や摩擦、成分による刺激を受けやすい部位です。

特に高齢者では、唾液の分泌の低下、薬の影響、口呼吸、飲水量の低下などにより口腔内が乾燥しやすくなります。
口腔内が乾燥すると、痰や汚れが粘膜にこびりつきやすくなり、無理に取ろうとすると粘膜への刺激となり、痛みや出血につながることがあります。
また、要介護者では、嚥下障害や認知機能の低下により誤嚥の危険があるため、一般的な歯みがきのように水を使った口腔ケアが難しい方もいます。
私の経験では、特に食べることが難しい方では、口腔内が乾燥しやすく、痰や汚れが粘膜に付着しやすいと感じます。
口の中の汚れは、口臭や不快感だけでなく、口腔内の出血や炎症、誤嚥性肺炎のリスクなどにつながることがあります。
そのため、口から食べていない方にとっても、口腔ケアはとても重要です。
口腔ケアシートは、こうした方の口腔内を湿らせながら、汚れをやさしく拭き取るためによく使われるアイテムの一つです。
今回参考にした特許でも、加齢、薬の服用、口呼吸などにより口腔内が乾燥しやすく、通常の口腔ケアでは刺激を感じやすい高齢者を対象とした口腔用清拭材が示されています。
口腔ケアシートを見るときのポイント
私の印象では、口腔ケアシートは製品ごとの差が分かりにくく、頻繁に新製品が登場するものというよりは、わりと定番化している介護用品の一つだと感じています。
実際の現場でも、口腔ケアシートは比較して選ぶというより、施設で採用されているものや、アメニティのセットに含まれているものを使うことが多いと思います。
在宅では、手に入りやすさや価格で選ばれ、問題なければそのまま同じものを使い続けている印象です。
このように、口腔ケアシートは消耗品として選ばれ、製品を比べる機会はあまり多くありません。
でも改めて考えると、口腔ケアシートは口の中に入れて使うものです。
手を拭くものならあまり気にしない成分でも、口の中に入れて使うものとなると、何が使われているのか、刺激やフレーバーなどが気になる方も多いのではないでしょうか。
今回参考にした特許を読むと、口腔内が乾燥し、通常の口腔ケアでは刺激を感じやすい高齢者を対象に、低刺激性、保湿性、水分量、不織布の素材や構造、大きさや厚みなどの工夫がなされていることが分かります。
つまり、見た目には大きな違いがないようでも、口腔内で使う用品として見ると、いくつか注目したい点があります。
ここからは、口腔ケアシートを見るときに注目したいポイントを、特許の内容も手がかりにしながら見ていきます。
口の中で使うための成分
口腔ケアシートは、口の中の粘膜に触れるだけでなく、唾液と混ざり、味や刺激として本人が感じる可能性があります。
自分が口の中を拭くと想像すると、刺激があったり、味が合わなかったりするものは嫌ですよね。
こうした使用感には、含まれる成分や薬液の性質も関係します。
口腔ケアシートには、製品によってアルコール成分を含むものがあります。
アルコールは清涼感を与える目的などで使われることがありますが、口腔内が乾燥している方や粘膜が敏感になっている方にとっては、刺激になる場合があります。
今回参考にした特許でも、口腔内が乾燥し、通常の口腔ケアでは刺激を感じやすい高齢者を対象として、エタノールを含まない薬液が示されています。
また、この特許では、薬液のpHを5.5〜7.0に調整することも一つの条件として挙げられています。
pH5.5〜7.0は、強い酸性やアルカリ性ではなく、口の中で使っても刺激を感じにくい中性に近い範囲です。
さらに、口腔ケアシートにはフレーバーが付いている製品も多くあります。
ミントのようなすっきり感を好む方もいれば、刺激が苦手で無香料やマイルドなもの、フルーツ系が好きな方もいます。
↓同じ製品でも、無香料・ミントとフレーバーがあるものも
口腔ケアシートを見るときには、汚れを取ることだけでなく、含まれる成分や使用感が本人にとって負担になっていないかという視点も大切です。
本人が意思表示できる状態であれば、「しみる」「まずい」「すっきりする」などの反応も、製品が合っているかを見る参考になります。
とはいえ、私の経験では、シートを使っての口腔ケアが必要な方の中には、自分で使用感をはっきり伝えることが難しい方も多くいます。
だからこそ、介助する側が汚れを取ることにだけ着目しすぎず、できるだけ刺激や不快感が少ない使用感であるかを気にすることも大切なのではないかと思います。
特に、口腔内が乾燥している方、粘膜が荒れている方、終末期の方、痛みや違和感を訴えにくい方では、さっぱり感よりも刺激の少なさを優先した方がよいと思います。
保湿性
口腔ケアシートでのケアが必要な方では、多くの場合、口腔内が乾燥しやすく、痰や汚れが粘膜にこびりつきやすくなっています。
そのため、口腔ケアシートで汚れを拭き取る際には、乾燥した汚れを湿らせ、やわらかくしながら拭き取る必要があります。
今回参考にした特許でも、トレハロース、ヒアルロン酸ナトリウム、ベタインといった保湿剤を含む薬液が示されています。
ここからも、口腔ケアシートでのケアでは、保湿しながら拭き取るためにシートに保湿成分が含まれていることが分かります。
液だれしにくい水分量
口腔ケアシートは、湿っていなければ乾燥した汚れをやわらかくしにくく、使用感も悪くなります。
しかし、シートに含まれる水分が多すぎると、嚥下が難しい方では口腔内に液がたまり、誤嚥してしまう可能性があります。
今回参考にした特許でも、薬液の含浸量が多すぎると口腔内に液が垂れ、誤嚥の原因となるおそれがある一方、少なすぎると使用感が悪くなることが述べられています。
つまり、口腔ケアシートの水分量は、湿り気と液だれのしにくさのバランスが重要なのです。
汚れを拭き取りやすいシート構造
前述したように、付着した汚れは、まず湿らせてやわらかくすると拭き取りやすくなります。
ただ、その汚れも、最終的にはシート側に移して回収するため、シート表面が汚れを拭き取りやすい構造になっているかも大切になります。
今回参考にした特許でも、口に含むものであるため、吸水性や使用感、安全面からコットンやレーヨンが好ましいこと、汚れの除去の面から拭き取り性のよいメッシュ状の不織布が好ましいことが示されています。

シート表面が平らすぎると、汚れをなでるだけになり、シート側に絡め取りにくくなります。
しかし、表面が粗すぎたり硬すぎたりすると、粘膜への刺激が強くなりやすいため、口腔ケアシートでは、汚れの拭き取りやすさと粘膜へのやさしさのバランスが大切になります。
指に巻きやすい大きさと厚み
口腔ケアシートは、一般的には指に巻いて使います。
そのため、指に巻きやすい大きさであることや、口腔内に入れやすい厚みであることは、介助する側の使いやすさに関わります。
今回参考にした特許でも、口腔内を清拭するためには、小さすぎると汚れを拭き取りにくく、大きすぎると口腔内に入れにくいことが述べられています。
また、薄すぎると破れやすく、厚すぎると水分を多く含みすぎるため、厚みのバランスも重要とされています。
実際の製品では、極端に使いにくい大きさや厚みのものはないかもしれませんが、製品によって使い心地には差があります。
指に巻きやすいか、口の中で動かしやすいかは、実際に使ってみると違いを感じやすい部分だと思います。
私が今よく使っている製品も、縦が短めの長方形で、指に巻きやすいサイズ感です。
実際に使ってみると、分厚すぎず指に巻くことができれば、ある程度の厚みがあることで指先の圧が直接伝わりにくく、やさしく拭き取りやすいように感じます。

現場ではどう使われているか
高齢者の口腔ケアでは、口腔内の状態によって道具の選び方や使い方が変わります。
歯ブラシやスポンジブラシなどの口腔ケア用品がありますが、出血傾向のある方、終末期の方、口腔内が強く乾燥している方では、やさしくケアしているつもりでも刺激になることがあります。
特に、乾燥した痰や汚れが粘膜に張りついている場合、いきなりこすって取ろうとすると、粘膜を傷つけたり、出血につながったりすることがあります。
私の経験でも、終末期の方の口腔ケアでは、スポンジブラシでやさしくケアしていても傷や出血につながった経験があります。
そのため現場では、まず保湿剤などで口腔内を湿らせ、乾燥した汚れをやわらかくしたうえで、ブラシ類は使わずに口腔ケアシートでやさしく拭き取る方法をとることがあります。
また、しっかりとケアしたい場合には、歯科で行う処置のように、吸引器で水分を吸引しながら水を使ってケアする方法もあります。
ただし、誤嚥を防ぎながら安全に行うには、ある程度の技術が必要です。時間や手間もかかります。
そのため、対象者の状態やケアの場面によっては、水を多く使う方法ではなく、口腔ケアシートでの拭き取りを中心に行います。
注意点として、口腔ケアの方法は、その方の状態や介助者によって異なります。
出血が続いている場合、強い痛みがある場合、口腔内に病変がある場合などは、歯科医師、医師、歯科衛生士などの専門職に相談しながら行う必要があります。
災害時などの備えとしての口腔ケアシート
口腔ケアシートは、日常の介護場面だけでなく、災害時の備蓄品としても役立ちます。
災害時には、水は貴重であるため、歯みがきに水が使えない状況も起こり得ます。
そのようなとき、口腔ケアシートがあれば、水を使わずに口腔内を拭き取ることができます。
通常の歯みがきと同じではないものの、水なしで口の中を清潔に保つためのグッズとして備えておく価値はあると思います。
また、口腔ケアシートについて調べる中で、体調が悪いときや疲れてどうしても歯みがきをしたくないときのために、口腔ケアシートを備えている人もいることを知りました。
もちろん、特に健康な方の場合は、口腔ケアシートを歯みがきの代わりとして日常的に使うものではありません。
それでも、水を使わずに口の中を拭けるものとして、災害時だけでなく日常のちょっとした備えにもなると感じました。
おわりに
口腔ケアシートは、一般的なウエットティッシュと見た目が似ています。
医療・介護現場でも、メーカーや製品ごとの違いを比べて使う機会はあまりないため、目立ちにくいケア用品の一つかもしれません。
しかし、口腔ケアシートは、口の中に使うことを前提に、低刺激性、保湿性、水分量、pH、不織布の素材や構造、大きさや厚みなどが考えられた製品で、口腔内で使うための工夫がそれぞれにあるのだと思います。
口腔内の乾燥の程度、出血しやすさ、嚥下障害、本人が味や刺激をどう感じるのか、介助者にとって扱いやすいのか、
そうした視点で比べてみると、普段何気なく使っている口腔ケアシートにも、選ぶポイントが見えてきます。
口腔ケアシートは比較的安価であり、試しやすい介護用品なので、実際にいくつか試してみると「これは使いやすい」と感じるものに出会えるかもしれません。
※本記事の内容は参考情報であり、正確性を保証するものではありません。
製品の購入や使用はご自身の判断と責任でお願いいたします。
本ブログでは、主に福祉用具や医療品が、現場でどのように受け止められるか、どのような場面で価値を発揮しやすいかといった点にも目を向け、医療・介護の現場の視点から発信しています。
こうした視点をもとに、看護師としての現場経験・特許への知見を活かし、医療材料・ケア用品の解説、技術記事の執筆、製品レビュー、市場展開につながるサポートなどを行っています。
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参照
公開特許公報 JP2011026269A「口腔用清拭材」(公開日:2011年2月10日)
日本歯科医師会
https://www.jda.or.jp/
日本歯科衛生士会
施設における口腔健康管理推進マニュアル
https://www.jdha.or.jp/pdf/outline/suishinmanual.pdf?utm_source=chatgpt.com
