認知症への誤解を解きたい

最近また、身近で新型コロナの感染が出はじめて、仕事が忙しくなっています。

家での勉強時間は確保できていますが、先週からは仕事の合間に明細書を見る時間がなく、残業の日も続いています。

そこで今回は、勉強関連ではなく、仕事で感じた認知症についての話をしたいと思います。

みなさんは認知症に対してどのようなイメージを持っていますか?

「何もわからなくなってしまう怖い病気」というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。

昨年、新薬レカネマブが日本で承認され、多くの人々が認知症に関心を寄せているように思います。

しかし、仕事で認知症の方のご家族と関わる中、まだまだ認知症について誤解や偏見が多いと感じます。

認知症に対する誤解

高齢者施設に関わるようになってからは、利用者さんだけでなくご家族も含めてお話をすることが多くなりました。

ご家族に多いのは以下のような方たちです。

  • 認知症をただの物忘れだと思っている
  • 認知症だからわからない、何もできないと思っている
  • 家族が認知症であることが恥ずかしい

これらの誤解はケアへのクレームになることもあり、私たちは「家族に分かってもらうにはどうしたらいいのか‥」と悩むことがよくあります。

認知症の誤解を解く

では、これらの誤解について具体的に解説していきます。

認知症は単なる物忘れとは違う 

認知症というのは、実は病気の名前ではありません。

以下の3つがそろっている状態を「認知症」と呼びます。

 ①脳に何らかの疾患がある

 ②そのために認知機能に障害が現れている

 ③それにより生活に支障が出ている

①の原因となる病気は70種類以上もあります。

中でも一番多いのがアルツハイマー病です。

出典:https://info.ninchisho.net/mci/k10

最近の考え方としては、この原因となる疾患は1つだけではなく、いくつか他の疾患も関わっているという考え方が主流となっています。

認知症は脳の疾患が原因であり、単なる老化現象とは異なります。

訪問先の施設で出会ったAさんの例ですが、Aさんは認知症の進行によりトイレでの排泄が難しくなり本人の負担になってきたため、おむつも使用するようになりました。

認知症では今まで何も考えずにできていた行動の一連のステップがわからなくなり、トイレに行くという基本的な行動を忘れてしまったようになってしまうのです。

それをご家族に説明しても「かわいそうだから毎回トイレに連れて行ってほしい。」となかなかご理解いただけません。

認知症の人は何もわからないわけではない

Aさんのご家族とは反対に、認知症の方は何も分からない、できないと思われているご家族も多いです。

認知症だからといってすべての能力が低下するわけではありません。

アルツハイマー型認知症では言語能力は比較的保たれるため、つじつまが合わないことがあっても、その場の会話のやりとりを穏やかに楽しむことができる方は多いです。

また、認知症が進んでも感情は残されています。

施設で娘さんの顔を認識できなくなっている方でも、嫌いなスタッフを見ただけで拒否することがあります。

このように、強い感情とともにある記憶は残りやすいのです。

認知症は誰でもなりうるもの

認知症の家族を持つことを恥ずかしいと感じ、隠そうとするケースが見られます。

認知症の最大のリスク要因は加齢です。

ということは、高齢化が進んでいる日本において、認知症になるのは珍しいことではないのです。

みなさんご存じの通り、日本では急速に少子高齢化が進んでいます。

高齢化率(65歳以上人口の割合)は年々増加し、生産年齢人口(15~64歳)や14歳以下の子どもの割合は減少しています。

2040年団塊ジュニア世代が65歳になると、グラフにおいて■で示している高齢化率は35%になる見込みです。

つまり約15年後には、約3人に1人が高齢者ということです。


出典:https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001093650.pdf

そして2025年、高齢者人口約3600万人のうち約700万人が認知症になると見込まれています。

もう来年には、65歳以上の5人に1人が認知症になるということです。

出典:https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/141031/201405037A/201405037A0001.pdf

長生きして認知症になることは、珍しいことでも恥ずかしいことでもないのです。

認知症の人が見ている世界

認知症の方の問題行動として、徘徊や介護拒否などを聞いたことがあるかも知れません。

こういった症状だけを聞くと、「認知症は大変」というイメージばかり強くなってしまいます。

実際、認知症の方の介護は大変です。

でも、認知症の方が何を見て何を思っているのかがわかれば、介護現場で”問題行動”として扱われる行動の見方が変わるかもしれません。

そして理由が分かると、関わるのも楽になるはずです。

それがわかりやすく書かれているのが「認知症世界の歩き方」という本です。

こちらの本では、認知症の方の経験や見ている景色を表現した場面やストーリーが ”当事者の視点” で紹介されています。

行き先がわからなくなる『ミステリーバス』から始まり『トキシラズ宮殿』『顔無し族の村』『七変化温泉』などの13個のストーリーが書かれています。

以下、それらを5つの視点にまとめました。

1.時間や場所、記憶が曖昧な世界

認知症の方は、時間や場所の感覚が混乱しています。

例えば徘徊は、過去の習慣に基づいて仕事に行こうと出かけたものの、自分がどこにいるのか分からなくなっているのが理由かもしれません。

また、記憶を保持できないため、視界から消えるとその物がなくなったと認識します。

それにより、物が盗まれたと思ってしまったり、扉で隠されている戸棚のトイレットペーパーを何度も買ってきてしまったり、ということが起こります。

食事をしたこと自体を忘れてしまうこともよくあります。

2.歪んだ視覚と空間の世界

視覚や空間認識の変化により、日常的にトリックアートの世界で生活しているように感じてしまいます。

例えば敷いてある玄関マットを落とし穴だと思い込み、怖くて通れなくなることがあります。

施設にもトイレに連れて行くと毎回混乱される方がいますが、混乱の理由は壁も床も便器も白いせいでトイレということがわからなくなるためなのです。

3.混乱したコミュニケーションの世界

言葉が出ずうまく伝えられなかったり、不確かなことへの不安から何度も同じ質問を繰り返したりすることがあります。

また、通常脳は五感からの大量の情報を選び、必要なものに注意を向けることができますが、認知症の方は聞くべき話、見るべき物に集中することが難しくなります。

すると他人とスムーズにコミュニケーションがとれなくなってしまいます。

4.体の感覚が変化する世界

入浴を拒否されると介護抵抗なのかと思えてしまいますが、実は身体感覚の異常のため、極度の熱く感じたり、お湯がヌルヌルに感じたりして入浴を嫌がっていることもあるのです。

料理の味付けがおかしくなることも、味覚や嗅覚を感じられないことによるものです。

また、尿意を感じにくくなりトイレに間に合わない、ということも起きます。

5.現実と幻想の交錯する世界

レビー小体型認知症特有の症状に幻視や幻聴があります。

部屋に虫がいる、小さい子がいる、というのはよく聞きます。

ずっと演歌が聞こえてくるという方もいます。

認知症の歴史と社会的な位置づけ

認知症についてメディアなどで話題になるのは、その症状や家族がなったらどうすればいいのか、治療法や予防法が多いですよね。

ここでは、認知症の社会的位置づけの変化について紹介します。

認知症はひと昔前まで痴呆症と呼ばれていました。

英語では「Dementia」といいます。

語源は、ラテン語の「de-mens」に由来しますが、このラテン語の語源も「正気からはずれる」という意味です。

痴呆症というのは昔から存在はしていたのですが、1970~1980年代というのは、認知症の人には悲惨な時代で、家族が認知症になろうものなら閉じ込められたり、家庭でみれなくなったら精神病院などに預けられたりしたそうです。

病院に入ったところで治療法もないのでベッドに縛られ寝かされていたとのこと。

そんな痴呆症も研究が進み、社会的な捉え方も変化していきます。

2000年に介護保険制度がスタートし、高齢者の介護は家族だけでなく社会全体の問題だとされたことは大きな変化となります。

そして2004年、その呼び方に侮蔑性がある、として「認知症」と呼び名が変更されました。

最近では、2023年に『共生社会の実現を推進するための認知症基本法』が成立しました。

この法律は病気に関するものですが、治療法ではなく共生社会を目指すことを重視しています。

認知症は認知機能の低下によって生活に支障をきたす状態ですが、その人の状況は周囲の環境によって大きく変わります。

この周囲の環境作りが注目されるようになってきたため、認知症基本法が整備され社会全体での支援が進んできているのかと思います。

ではなぜ、こうした動きがあるのに認知症への正しい理解は進まないのでしょうか?

個人的な意見ですが、その理由は日本人の家庭内の問題を表には出したくないという傾向や、メディアの偏った報道に影響されやすいことも原因ではないかと思います。

介護者としてできること

認知症の研修で、医師で認知症研究の第一人者として知られている長谷川和夫先生の書かれた本を勧められました。

長谷川先生は、医療従事者なら誰でも知っている長谷川式スケールを作った方で、自身が認知症になり体験されたことなどを綴っています。

この本を読んで、自分が認知症という情報で線引きしてしまい、接し方を変えてしまっていることに気づきました。

家族指導をする前に、まず私たち看護師介護士が誤解偏見なく認知症の方と向き合い、残った能力とその人らしさに着目することから始めたいものです。

長寿大国である日本は認知症大国になりつつあります。

認知症への誤解や偏見をなくし認知症の人が生きやすい世の中を作っていくことが、将来の自分や家族のためにもなるのではないでしょうか。

参照

筧祐介.認知症世界の歩き方.ライツ社,2021

長谷川和夫、猪熊律子.ボクはやっと認知症のことがわかった.株式会社KADOKAWA,2019

厚生労働省 

 ・我が国の人口について:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21481.html

 ・共 生 社 会 の 実 現 を 推 進 す る た め の 認 知 症 基 本 法 に つ い てhttps://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001119099.pdf

日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究:https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/141031/201405037A/201405037A0001.pdf

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