健康診断などでエコー(超音波)検査を受けたことがある方は、皮膚にジェルを塗り、その上から機器を当てるのを見たことがあると思います。
検査では当たり前に使われているこのジェルには、皮膚の上で機器をスムーズに動かすという役割もありますが、実はそれだけではありません。
ジェルには、超音波を身体の中へ伝えやすくするための重要な役割があります。
今回は、超音波を理解するために必要な波の基礎を解説しながら、エコー検査でジェルを塗る理由について見ていきます。
なお、本記事は筆者個人の見解・調査に基づいた内容です。
内容の正確性を保証するものではなく、紹介する製品の購入・使用は必ずご自身の判断と責任で行ってください。
本記事の英語版はこちら→Why Is Gel Used in Ultrasound? Wave Basics Explained(準備中)
超音波とは
超音波とは、人が聞くことのできる範囲よりも高い周波数をもつ音です。
例としては、医療現場で行われる超音波検査があります。
また、自然界では、コウモリやイルカなどが人には聞こえない高い音を発し、その反射を利用して周囲の状況を把握することが知られています。
このように、超音波は特別な種類の何かではなく、音の一種です。
そして音は、物理的には「波」として伝わります。
このため、音の波を「音波」と呼びます。
ただ、音波そのものを目で見ることはできません。
そのため、
「音が波として伝わる」
と言われても、少しイメージしにくいかもしれません。
そこで、まずは動きがわかりやすい水面の波を例に、波の基本的な性質について確認していきたいと思います。
波についての基礎知識
波とは
「波」というと、海の波やお風呂の揺れる水面を思い浮かべる方が多いと思います。
例えば、静かな池に石を落とすと、落ちた場所を中心に波が外側へ広がっていきます。
このとき、波が内側から外側へ進んでいるように見えますが、水そのものが移動しているわけではありません。
これはその池の水面に葉っぱを浮かべてみるとわかります。
波が通過すると葉は上下に揺れますが、波と一緒にそのまま外側へ運ばれてはいきません。
水面では、一つの場所で起こった上下の動きが隣の水へ伝わり、さらにその隣へと伝わっていっているのです。
このように、ある場所で起こった振動が周囲へ次々と伝わっていく現象を「波」といいます。
波を伝えるもの
波によって伝わっているのは、水などの物質そのものではありません。
物質がその場で振動することで、エネルギーが次々と伝わっていきます。
人が声を出すと声帯が振動し、その振動によって周囲の空気も振動します。
その振動が隣の空気へ、さらにその隣へと伝わって耳に届くことで、私たちは音として感じます。
このように、波を伝える役割をしている物質を「媒質」といいます。
水面の波では水、私たちが普段聞いている音では空気が媒質になります。
また、音は空気中だけでなく、水などの液体や固体の中でも伝わります。
ただし、すべての波が物質を媒質として必要とするわけではありません。
例えば、電波や光は電磁波と呼ばれる波で、音波とは異なり、空気がない真空中でも伝わることができます。
これは、空気がほとんどない宇宙空間をイメージするとわかりやすいと思います。
太陽の光は宇宙空間を通って地球まで届きますし、人工衛星との通信にも電波が使われています。
では、今回テーマとしている超音波についてはどうでしょうか。
超音波というと、何やら特殊なもののような気がしますが、その正体は人が聞くことのできる範囲を超えた「音波」です。
そのため、超音波が伝わるためにも媒質が必要です。
医療で使われる超音波は、皮膚や脂肪、筋肉など、身体を構成する組織を媒質として伝わっていきます。
縦波と横波
音波では、こうした媒質が実際にどのように振動しながら音を伝えているのでしょうか。
波は、媒質が振動する方向と波が進む方向との関係によって、「横波(よこなみ)」と「縦波(たてなみ)」に分けられます。
●「横波」は、波が進む方向と媒質が振動する方向が垂直になる波です。
例えば、ロープの端を持って上下に振ると、ロープそのものは上下に動きますが、波はロープに沿って横方向へ進んでいきます。

波の進む方向 →
媒質の振動する方向 ↑↓
●「縦波」は、波が進む方向と媒質が振動する方向が同じ波です。
縦波の動きは、波の動きがそのまま形に表れる横波よりも少しイメージしにくいのではないかと思います。
わかりやすいのが、子どもの頃に遊んだ、レインボーカラーの長いバネの動きです。

バネの端を押すと、縮んだ部分と広がった部分が次々と先へ伝わっていきます。
このようなバネの動きを紹介した動画はいくつかあるので、実際に見てみると、縦波の動きをよりイメージしやすいと思います。
このときも、バネそのものが端から端まで移動しているわけではなく、バネの各部分が前後に振動しながら、その振動が隣へと伝わっています。

波の進む方向 →
媒質の振動する方向 ↔
私たちが普段聞いている音は、基本的にこの縦波として伝わります。
空気中では、空気の粒子が前後に振動することで、粒子が密集した部分と、間隔が広がった部分が生じます。
その変化が次々と隣へ伝わることで、音が進んでいきます。
超音波も音波の一種なので、人体の軟らかい組織の中を同じように縦波として伝わります。
波を表す量
ここでは、超音波を理解するため、波の特徴を表す基本的な量である「振動数(周波数)」「波長」「波の速さ」について簡単に説明していきます。

- 振動数(周波数)(f)
1秒間に何回振動するかを表し、単位にはHz(ヘルツ)が使われます。
例えば、1秒間に100回振動する波であれば、振動数は100Hzです。
なお、1回の振動にかかる時間を「周期(T)」といいます。
そのため、1秒間に振動できる回数は 回となり、振動数 は
f=1/T
と表されます。
- 波長(λ)
波一つ分の長さです。図のような波では、一つの山から次の山、または谷から次の谷までの距離として考えるとわかりやすいと思います。 - 波の速さ(v)
波が進んでいく速さです。音波の場合、波の速さは通過する媒質によって異なり、空気、水、人体の組織ではそれぞれ異なります。
この3つには、
v=fλ(波の速さ=振動数×波長)
という関係があります。
同じ媒質の中を進む波では、波の速さが一定であれば、振動数が高くなるほど波長は短くなります。
ここで、今回のテーマの「超音波」という言葉の理解につながります。
音や超音波の分野では、この振動数を「周波数」と表すことが一般的です。
一般に、人が聞くことのできる音の周波数はおよそ20Hz~20kHzとされており、それより高い周波数をもつ音波を「超音波」といいます。
つまり、超音波の「超」は音の大きさではなく、周波数が人の聞こえる範囲を超えているという意味です。
エコー検査の仕組み
超音波の反射
ここまで見てきた波の基礎から、超音波がどのようなものか少し見えてきたと思います。
超音波は音波の一種で、身体の組織を媒質として、主に縦波として伝わります。
エコー検査ではおよそ1~20MHzという、人が聞くことのできない高い周波数の超音波が使われます。
1MHzは100万Hzなので、例えば5MHzであれば、1秒間に500万回振動していることになります。
このような超音波を身体の中へ送り、その伝わり方や反射を利用して身体内部の情報を画像として捉えるのが、エコー(超音波)検査です。
身体の中へ送られた超音波から情報を得るうえで、重要になるのが「波の反射」です。
「反射」とは波が異なる媒質の境界で跳ね返る現象です。
波は、密度などの物理的な性質が異なる媒質の境界に達すると、その一部が跳ね返り、残りはそのまま先へ進みます。
このとき、跳ね返った波を「反射波」、境界を通って先へ進む波を「透過波」といいます。
音で身近な例を挙げると、山で声を出したときに聞こえるやまびこも、音波が反射して戻ってくることで起こります。
では、この「反射」がどのようにエコー画像につながるのか、その仕組みを見ていきます。
エコー検査では、プローブ(皮膚に当てて超音波を送受信する部分)から身体の中へ超音波を送り出します。
超音波は皮膚や脂肪、筋肉、臓器などを伝わっていきますが、性質の異なる組織との境界に達すると、その一部が反射し、残りはさらに奥へと進んでいきます。
反射して戻ってきた超音波は、再びプローブで受信されます。

そして、超音波を送り出してから戻ってくるまでの時間や、反射して戻ってきた波の強さなどの情報を利用して画像がつくられます。
戻ってくるまでの時間からは、どのくらいの深さで反射が起こったのかを知ることができます。
また、反射の強さは組織によって異なり、その違いが画像の明るさの違いとして表れます。
つまり、エコー検査では、超音波がどこでどれくらい反射したのかという情報を利用して、身体の内部を画像として捉えています。
逆にいえば、超音波がまったく反射しなければ、画像として捉えることはできません。
でも、しっかりと反射すれば、よりよく見えるというわけでもありません。
ある境界で超音波が強く反射すると、その分だけさらに奥へ進む超音波は少なくなっています。
例えば、超音波の一部だけが反射して残りが奥へ進めば、その先の組織からも情報を得ることができます。
しかし、ある場所でほとんどが反射してしまうと、その先へ届く超音波は少なくなり、深い部分の情報を得にくくなります。
このため、エコー検査では、反射が起こることだけでなく、どこでどの程度反射するのかが重要になります。
音響インピーダンス
なぜ超音波は場所によって強く反射したり、あまり反射せずに通り抜けたりするのでしょうか。
ここに関係するのが、「音響インピーダンス」です。
音響インピーダンスとは、簡単にいうと、その物質が音波に対してもつ性質を数値で表したものです。
物理的には、物質の密度と、その物質の中を進む音の速さによって決まり、
音響インピーダンス Z=密度 ρ × 音速 c
という関係で表されます。
重要なのは、音響インピーダンスの数値そのものよりも、隣り合う物質どうしの差です。
例えば、音響インピーダンスの差が小さい物質どうしの境界では、超音波の多くはそのまま先へ進み、一部だけが反射します。
一方、音響インピーダンスの差が大きい境界では、超音波が強く反射し、その先へ進む量が少なくなります。
体の中でも、脂肪、筋肉、血液、臓器、骨などでは音響インピーダンスがそれぞれ異なります。
そのため、それぞれの境界で反射する超音波の強さにも違いが生まれます。
この違いが、エコー画像の明るさの違いとして表れ、画像として身体の中を捉えることができるのです。
ジェルが必要な理由
ここで、最初のエコー検査で使うジェルの話につながります。
プローブを皮膚に直接当てても、皮膚表面には細かな凹凸があるため、プローブと皮膚は完全には密着せず、その間にはわずかな空気が残ります。

この「空気」が、超音波検査では大きな問題になります。
空気と人体の組織では、音響インピーダンスに大きな差があります。先ほど説明したように、音響インピーダンスの差が大きいということは、その境界では、超音波が強く反射しやすくなるのでしたね。
ということはつまり、
プローブ
↓
空気
↓
皮膚
という状態では、超音波が身体の中へ入る前に、空気と皮膚の境界で強く反射してしまいます。
すると、身体の奥へ進む超音波が少なくなり、内部から十分な情報を得にくくなります。
身体の中に入ったあとで起こる反射は、内部の情報を得るために利用できますが、身体に入る前に強く反射してしまうと、その先の組織まで超音波が届きにくくなってしまうのです。
そこで使われるのが、エコー用ジェルです。
ジェルを塗ることで、プローブと皮膚の間にある空気をできるだけ減らし、
プローブ
↓
ジェル
↓
皮膚
↓
身体の中
という状態をつくります。

これによって、空気の層がある場合よりも、超音波を身体の中へ伝えやすくなります。
もちろん、ジェルには滑りをスムーズにする役割もありますが、それだけではありません。
エコー用ジェルには、プローブと皮膚の間の空気を減らして皮膚の手前での強い反射を抑え、超音波を身体の中へ伝えやすくする重要な役割があります。
おわりに
今回は、エコー検査で使われるジェルをきっかけに、超音波と波の基本的な性質について見てきました。
超音波検査というと、病院で医師や臨床検査技師が扱う機械というイメージが強いかもしれません。
しかし近年では、小型で持ち運びのできるポケットエコーも登場し、病棟だけでなく、在宅や訪問看護などで看護師がアセスメントに活用する場面も広がってきています。
エコーで身体の中を画像として確認できることは、視診・触診・聴診など限られた情報から状態を判断することの多い在宅の場面では、とても役に立つと思います。
機器を使うためには操作方法だけでなく、「なぜ画像として見えるのか」「なぜジェルが必要なのか」といった基本的な仕組みを知っておくことも大切です。
今回見てきたように、エコー検査には、波の伝わり方や反射、音響インピーダンスといった物理の原理があります。
普段何気なく目にしている医療機器やケア用品についても、その仕組みを少し掘り下げてみることで、看護の実践や技術への理解がより深まるのではないかと思います。
※本記事の内容は参考情報であり、正確性を保証するものではありません。
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参照
谷腰欣司.『トコトンやさしい超音波の本』.日刊工業新聞社,2004.
現場で使える実践ケアの情報サイト https://www.almediaweb.jp/expert/feature/2212/
