排泄ケアは、医療・介護現場で欠かすことのできないケアの一つです。
その中でも、おむつ交換をしたことがある方なら、「おむつを開けずに中の状態が分かればよいのに」と思ったことがあるのではないでしょうか。
人手不足が続く介護現場では、必要なケアをしながら、排泄にかかる手間をどう減らすかが大きな課題です。
株式会社abaの『Helppad 2』は、ベッドに敷いたセンサーでにおい・湿度・温度を捉え、AIで尿と便を検知し、おむつ交換のタイミングを知らせる製品です。
この「においで尿と便が分かる」とは、どのような仕組みなのでしょうか。
今回は、公式情報と導入事例、同社の特許を手がかりに、その特徴と技術を見ていきます。
なお、本記事は筆者個人の見解・調査に基づいた内容です。
内容の正確性を保証するものではなく、紹介する製品の購入・使用は必ずご自身の判断と責任で行ってください。
本記事の英語版はこちら→How Helppad 2 Detects Urination and Defecation: Insights from Its Related Patents(準備中)
おむつ交換のタイミングについての問題点
排泄ケアは、医療・介護現場では毎日行われる基本的なケアです。
一方で、利用者さんにとっては恥ずかしさを感じる繊細なケアでもあり、介護者にも、人の排泄介助にはなかなか慣れないという方がいます。
おむつを使用した排泄ケアでは、おむつ交換など、介護者の手伝いが必要である場合がほとんどです。
認知機能や意識状態、身体機能などの影響によって、排泄したことをうまく伝えられない方も多くいます。
そのため、病院や介護施設では、決められた時間に職員がおむつを確認することが一般的です。
定時の交換には、利用者さんからのコールを待つよりもケアの予定を立てやすい、というメリットもあります。
ところが、定時におむつを開けても、必ず排泄しているとは限りません。
このような「空振り」の場合でも、身体の向きを変え、衣類やおむつを開いて確認し、また元の状態へ戻す必要があります。
排泄がなかったとしても、この一連の動作は、利用者さんにも介護者にも負担になります。
そして、空振りの直後に排泄した場合には、次の定時交換まで時間が空いてしまうため、おむつから漏れてしまうこともあります。
そうなると、更衣やシーツ交換などの追加のケアが必要になるだけでなく、皮膚が排泄物にさらされる時間が長くなることで、皮膚トラブルの原因にもなり得ます。
また、コールを押して「排泄した」と知らせることはできるものの、感覚が曖昧な方もいます。
この場合も、おむつを確認すると実際には何も出ていなかった、という空振りが起こることがあります。
利用者さんからの訴えがあればその都度確認することは必要ですが、他のケアやコール対応が重なれば、職員の負担はさらに大きくなります。
排泄ケアそのものを減らすことは難しいため、限られた人数で必要なケアを続けるには、
「排泄しているかどうかを確認するためだけの動きを減らし、必要なときに対応できるようにする」
という視点が重要になります。
こうした判断をサポートする製品の一つが、株式会社abaの『Helppad 2』です。
排泄検知センサー『Helppad 2』
昨年参加した展示会で、Helppad 2の実物を見る機会がありました。

Helppad 2は、センサーを収めたパッドをベッドの上に設置し、利用者さんの下に敷いて使用するシート型の製品です。
公式サイトでは、Helppad 2は、AIによる排泄検知、通知、記録などの機能を備え、利用者さん一人ひとりに合わせた排泄ケアを支援する製品として紹介されています。
以下、主な機能を見ていきます。
データからAIが尿と便を検知する
Helppad 2は、センサーが捉えた「におい」「湿度」「温度」のデータをAIが解析し、尿と便を検知します。
利用者さんごとに交換のタイミングを設定できる
排泄があったと分かったからといって、すぐにおむつを交換することが、必ずしも最善のケアとは限りません。
Helppad 2は、利用者さんごとに通知感度を調整でき、設定したおむつ交換のタイミングになると、パソコンやスマホ、タブレットなどへ通知されます。

例えば、便の場合は早めに交換したいものですが、尿については、少量の排尿のたびに交換するのではなく、その方の尿量や使用しているパッドの吸収量に合わせて交換したい場合があります。
公式サイトによると、このような通知感度や交換タイミングを、利用者さんごとに設定できるようです。
排泄データを記録できる
検知した排泄状況は自動でグラフ化され、交換記録やメモも残すことができます。
そのため、単に排泄の有無を知らせるだけでなく、利用者さんごとの排泄パターンを把握し、交換時間や使用するパッドを見直すための情報としても利用できます。
身体へ機器を装着する必要がない
身体へ機器を装着する必要はなく、利用者さんの下に敷くだけです。

センサーはマット内に収められており、排泄センサー本体とマットは清拭可能、カバーは洗濯できるとされています。
特許から考えるHelppad 2のメカニズム
Helppad 2の大きな特徴は、おむつを開けることなく、尿や便を検知できることです。
では、ベッドに敷いたセンサーだけで、どのように排泄を検知し、さらに尿と便まで判別しているのでしょうか。
公式サイトでは、センサーが「におい」「湿度」「温度」の変化を捉え、その情報をAIが解析して尿と便を検知すると説明されていますが、その詳しいメカニズムまでは公開されていません。
そこで今回は、株式会社abaが出願している二つの特許を参考に、公開情報と照らし合わせながら、Helppad 2の仕組みを考えてみます。
特許に書かれた内容がそのまま現在のHelppad 2へ採用されているとは限らないため、以下の内容には、公開情報と特許から読み取れることに加えて私個人の考えも含まれます。
尿と便とを判別する仕組み
現場では、おむつの外側からの見た目、触った感触、においなどから、排泄したかどうかを判断することがあります。
しかし、便が出ていても意外とにおわないこともありますし、逆に尿のにおいが強く、便と間違うようなこともあります。
このように、人がその瞬間に感じるにおいや触った感覚だけで、排泄したかを確認し、尿と便を区別することは簡単ではありません。
2019年に出願された「排泄検知装置及び排泄検知方法」の特許には、排泄物から発生するガスだけでなく、臀部付近の水分量も組み合わせて、排泄内容を判断する方法が示されています。
具体的には、ガスセンサーによって排泄物から発生するガスの変化を検知するとともに、電極間の静電容量から周囲の水分量を推定するという仕組みです。
静電容量とは、電気を蓄える性質を表す値です。
電極の周囲に水分が増えると値が変化するため、その変化を利用して水分量を推定しています。
特許では、おおまかに次のような考え方が示されています。
●ガス変化なし → 排泄なし
●ガス変化あり・水分 少 → 排便
●ガス変化あり・水分 多 → 排尿、または排尿もしくは水様便
つまり、「ガス」と「水分」という二つの情報から排泄内容を判断するというメカニズムです。
Helppad 2 にこちらの特許の技術が使われていることは確認できませんが、複数の情報を組み合わせて判定するという考え方は、共通しているのではないかと考えられます。
また、この特許では、排尿と判断する水分量の基準を変更することで、少量の排尿では通知せず、一定量に達した段階で通知するという仕組みも示されています。
この考え方は、現在のHelppad 2で、利用者さんごとに通知感度や交換タイミングを設定できるという特徴にも通じるのではないかと思います。
排泄の内容や時間帯を把握できれば、全員一律の定時交換だけでなく、その方の排泄パターンに合わせた対応もしやすくなります。
これは、職員の負担軽減だけを目的としたものではありません。
排泄していないのにおむつを開けられることや、眠っているところを確認や交換のために起こされることは、利用者さんのプライバシーや睡眠にも関わります。
また、排泄後に早く気づくことができれば、おむつから漏れてしまう前に対応したり、不快な状態で過ごす時間を短くしたりすることにもつながります。
皮膚が排泄物に触れる時間を減らせれば、皮膚トラブルの予防にも役立つでしょう。
人によっては、排泄後の不快感から自分でおむつやパッドを外す「おむついじり」によって、更衣やシーツ交換まで必要になることもあります。
適切なタイミングで対応できれば、このような状況を減らすことにもつながると思います。
このように、Helppad 2が目指しているのは、単に排泄を検知することではなく、必要なタイミングで必要なケアを行いやすくすることなのではないでしょうか。
ベッドの上で使いやすい仕組み
センサーで排泄を検知することができても、実際の現場で使えるような機器でなければ、製品にはなりません。
2024年に出願された「排泄検知センサデバイス、排泄検知センサパッド及びシート部材」の特許では、センサーを利用者さんの下へ置き、毎日使えるようにする工夫について記載されています。
従来は、臀部付近の空気をチューブで吸引し、離れた場所にあるセンサーへ送る方法がありました。
しかし、この方法では尿や便がチューブ内へ入り込み、清掃やメンテナンスが大変になるおそれがありました。
そこで特許では、空気を吸引して離れた場所へ送るのではなく、においセンサーそのものを利用者さんの下へ配置するという考え方が示されています。
さらに、センサーは一か所だけではなく、柔らかく曲がる帯状の部材に複数配置されています。
利用者さんが寝返りなどで動くことで、臀部の位置がずれることがあります。
一つのセンサーだけでは排泄を捉えにくくなることがあるため、複数配置することで、より広い範囲を検知できるようにしています。
現在のHelppad 2のセンサーも、ベッドの幅方向へ長く伸びた形状になっています。

内部構造は公開されていませんが、この特許を読むと、なぜこのような形になっているのか理解しやすくなります。
水や体圧に耐える構造
センサーを利用者さんの下へ置く方法では、別の問題も生まれます。
それは、利用者さんの体重がかかり、寝具と擦れ、さらに尿や便、陰部洗浄時の水にもさられやすいという問題です。
そこで特許では、次のような工夫が記載されています。
●センサーを表面へそのまま取り付けるのではなく、支持体に設けたくぼみの中へ収めています。これにより、身体や寝具が直接当たりにくくなり、体圧や擦れからセンサーを保護しやすくなります。
●センサーを覆う部分には、水蒸気やにおいは通すが液体の水は通しにくい透湿防水材料が用いられています。
●センサーはシート状で、利用者さんの下に敷いて使用するため、身体の形に沿いやすい柔軟性が求められます。そのため、パッド全体は柔軟な基板としながら、電子部品がある部分だけを硬い部材で補強しています。
現場で使い続けるための工夫
この特許には、においセンサーだけでなく、圧力センサーを組み合わせる仕組みも記載されています。
利用者さんがベッド上にいることを圧力によって確認し、においセンサーの値と組み合わせて排泄を判定することで、周囲のにおいなどによる誤検知を減らすという考え方です。
現在のHelppad 2にこの仕組みが採用されているかは分かりませんが、誤検知が多ければ、かえって介護者の負担につながります。
そのため、安定して正しく検知するための工夫は、現場で使う機器として重要な視点だと感じました。
また、公式サイトでは、Helppad 2のカバーは洗濯でき、排泄センサー本体とマットは拭くことができると紹介されています。
排泄ケアの場で使うものなので、汚れたときに手入れできることは外せない条件だと思います。
導入費用と補助制度
Helppad 2の価格は、公式サイトではオープン価格とされており、具体的な導入費用は公表されておらず、個別に見積もりを依頼する必要がありそうです。
Helppad 2は、利用者さん個人ではなく、主に施設や病院向けの製品です。
そのため、介護保険を利用して個人で使用することはできないようです。
一方、Helppad 2は、TAIS(公益財団法人テクノエイド協会が運営する福祉用具情報システム)に登録されているため、自治体などの、介護ロボット・ICT導入支援事業の補助金の対象となる場合があります。
ただし、条件は年や自治体によって異なるため、最新の情報を確認する必要があります。
導入事例から見えること
公式サイトやいただいたパンフレットには、介護施設や病院での導入事例が紹介されています。
私自身、実際にHelppad 2を排泄ケアで使用したことはありませんが、こうした事例を読むことで、センサーが現場でどのように活用されているのかを知ることができました。
排泄データをパッド選びや交換方法の見直しに活用
ある施設では、それまで職員の経験や感覚に頼って尿量を判断していたことや、必要以上に吸収量の大きなパッドを選びやすいことが課題になっていました。
そこで、Helppad 2の排泄データをもとに、パッドの種類や交換のタイミングを見直したところ、5名に使用した事例では、3名がパッドのサイズダウンにつながったと紹介されていました。
また、別の導入事例では、
夜間帯のおむつ交換回数が35.0%、
おむつを確認しても排泄がない「空振り」の回数が90.1%、
漏れの回数が86.2%、
それぞれ削減するとができたとされています。

株式会社aba Helppad 2 パンフレット掲載の導入事例参照
もちろん、どの施設でも同じ効果が得られるとは言えません。
それでも、経験や感覚だけに頼るのではなく、データを活用しながらその方に合った排泄ケアを考え、実際の現場で結果につなげていることに、この機器の実用性を感じました。
このように、Helppad 2についてまず印象的なのは、不要なおむつ交換を減らし職員の業務負担の軽減につなげられる点です。
しかし、導入事例では、排泄ケアを一人ひとりに合わせて見直すことが、利用者さんの尊厳を守り、生きる意欲を引き出すことにもつながるということも紹介されていました。
私も交換回数や業務負担が減るという点に目が向きがちでしたが、その先にある利用者さんの尊厳や意欲まで含めて排泄ケアを考える必要があることに、改めて気づかされました。
通知をトイレ誘導に活用
もう一つ印象に残ったのは、Helppad 2の通知をトイレ誘導に活用した事例です。
おむつを使用していても、トイレに行きたいと思っている方はいます。
その事例では、排泄のタイミングを把握してトイレへ誘導することで、トイレでの排泄につなげることができたようです。
排泄検知センサーは排泄後の対応に活用するものと考えていたため、通知をトイレ誘導に利用し、排泄の自立につなげるという使い方は、私にはなかった視点でした。
利用者さんの排泄能力や、トイレで排泄したいという思いを支えるためにも活用できるのだと感じました。
現場での使用について考える
私はHelppad 2を実際の排泄ケアで使用したことはありません。
そのため、機器の使いやすさなど、実際に使ってみなければ分からない部分があります。
ただ、現場で働いている立場から感じるのは、Helppad 2は、「これを使えばすぐ人の負担が減る」という製品ではないということです。
通知が来たら対応するだけでは、逆に負担が増えることもありそうです。
定時交換をどう見直すのか、通知を誰が受けるのか、どう設定するのか、トイレ誘導にどうつなげるのかなど、施設全体で運用を試行錯誤して初めて、この機器のメリットが生きてくるのではないでしょうか。
そして、その運用は、管理者だけで決めても、現場任せにしても、どちらもうまくいかないように思います。
介護・医療の現場では、一日の生活の流れが決まっているため、一度定着した業務の流れを変えることには抵抗があるという声をよく聞きます。
だからこそ、実際に利用者さんと接している現場の職員の納得を得ながら、管理者と現場が一緒に試行錯誤し、それぞれの施設に合った使い方を作っていく必要があるのではないかと思います。
その意味では、メーカー側にも、導入した事例からのメリットだけでなく、「どのように運用を変えていったのか」「つまずきやすい点は何か」といった、導入から定着までの具体的なステップを示してもらえるとよいと思います。
また、導入後の運用がうまくいかない場合にも相談できるなど、状況に応じた個別のフォローが充実すれば、施設側も導入後の活用を具体的にイメージしやすくなるのではないでしょうか。
私自身、この機器を使うなら、決まった時間の作業になりがちなおむつ交換を一人ひとりに合わせた排泄ケアへ変えていきたいと思いました。
さらに、導入事例にあったように、排泄のタイミングをトイレ誘導へ生かせる利用者さんが増えれば、おむつを使用していても、トイレで排泄する機会を増やせるかもしれません。
また、Helppad 2は、以前このブログで紹介した見守り支援システム『aams+』と連携して利用することもできるようです。
(以前の記事はこちら→『aams+』は転倒をどう予測するのか)
見守りと排泄検知の情報を組み合わせることで、訪室すべきかの判断や、排泄のタイミングに合わせた対応にも生かせそうです。
機器を単独で使うだけでなく、他の見守り機器と連携させることで、現場での活用の幅もさらに広がると感じました。
こうした機器の活用が、利用者さんの尊厳を守ることや自立支援につながるのであれば、単に業務負担を減らすだけでなく、利用者さんの生活そのものを支える、とても意義のあるものだと感じます。
おわりに
排泄ケアは、介護する側にも介助される側にも負担がかかりやすく、とてもデリケートなものです。
Helppad 2は、おむつを開けずに排泄の有無や交換のタイミングを把握でき、一人ひとりに合ったケアを考えるための情報を得られる製品です。
公開情報や導入事例からは、おむつ交換の見直しだけでなく、トイレ誘導や自立支援にも活用できる可能性を感じました。
しかし、この機器の導入は、費用だけでなく、現場の業務内容にも大きな変化をもたらします。
その良さを生かすには、機器を導入するだけでなく、現場に合った運用を考え、使い方が定着するまで支えていくことも必要です。
排泄ケアは、介護業務の中でも負担を感じやすいため、こうした負担を減らすことは、介護現場全体をより働きやすくすることにもつながるのではないでしょうか。
次回は、排泄前のタイミングを予測するタイプの機器である『DFree Ben』を取り上げたいと思います。
※本記事の内容は参考情報であり、正確性を保証するものではありません。
製品の購入や使用はご自身の判断と責任でお願いいたします。
本ブログでは、主に福祉用具や医療品が、現場でどのように受け止められるか、どのような場面で価値を発揮しやすいかといった点にも目を向け、医療・介護の現場の視点から発信しています。
こうした視点をもとに、看護師としての現場経験・特許への知見を活かし、医療材料・ケア用品の解説、技術記事の執筆、製品レビュー、市場展開につながるサポートなどを行っています。
(詳しくはこちら→サービス一覧)
ご相談は、ブログ内フォームよりお気軽にご連絡ください。
参照
株式会社aba『Helppad 2』公式サイト https://helppad.jp/
特開2021-009127
「排泄検知装置及び排泄検知方法」
特許第7441580号
「排泄検知センサデバイス、排泄検知センサパッド及びシート部材」
