私の親は神経難病を患っています。先日主治医から、「経験上、この病気の末期は多幸的に見える方が多い」と説明を受けました。
タコウテキ?
幸せが多い??
本人はつらそうだけど、幸せを感じれるようになるの??
話を聞きながら色々疑問がわきました。
この記事では、この多幸感について探るべく、人間にとって永遠のテーマとも言える“幸せとは何か”について科学的な視点から深掘りしていきます。
幸福とは
世界の幸福度ランキングにおいて、日本は先進国の中で下位の常連となっています。
ネットには幸せになる方法の記事が溢れ、本屋さんには幸福論を説いた本がたくさん並んでいます。
つまりそれは、多くの日本人は自分が幸せではないと自覚していて、幸せ探しへの関心が高い、ということでしょう。
私自身、意思を伝えることが難しくなった方と接する機会が多く、「この人って幸せなんだろうか‥」と、考えてしまうこともあります。
幸福論の書かれた本をいくつか読んだことはありますが、ふわっとした哲学的なものが多い印象です。
そういった本とは違い、こちらの本では、幸せになる方法が具体的に科学的根拠に基づいて紹介されています。
精神科医である筆者によると、幸せの正体は脳内物質である、とのこと。
その脳内物質は、セロトニン・オキシトシン・ドーパミンという3つで、これらを3大幸福物質と呼んでいます。
3大幸福物質
次に3大幸福物質のそれぞれの特徴について説明していきます
セロトニン
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AD%E3%83%88%E3%83%8B%E3%83%B3
セロトニンは心と身体の健康の幸福です。
セロトニンは、大脳皮質や視床下部などに分布し、気分、社会行動、食欲、睡眠、記憶、性欲など多岐にわたる機能を調節しています。
セロトニンレベルが低いと、うつ病や不安、病気という状態を引き起こす可能性があります。
実はセロトニンの多くは腸内で分泌されており、それは脳内のセロトニンとは違う働きをしています。
しかし『脳腸相関』と言って互いに影響しあっているため、腸内環境が整っていることが、脳のセロトニンの働きを正常に保つためにも大切になります。
オキシトシン
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%B3
オキシトシンは他者とのつながりによって生まれる幸福です。
視床下部で生成され、後脳垂体から分泌されます。
これは、親子の絆やパートナーとの絆を強化する役割があり、愛と信頼の感情を促進します。
ドーパミン
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%9F%E3%83%B3
ドーパミンは成功の幸福です。
お金を得る、仕事で昇進する、地位や名誉を手に入れる、スポーツの大会で優勝するなどの何かを得たり、達成した喜びがドーパミンによる幸福です。
どんな行動も、したいという欲求から始まります。
ドーパミンはその欲求が引き金になって分泌される、私たちのモチベーションの源でもあります。
しかし、何かを得るためには大変な努力などの対価が必要になるため、簡単に得られる快楽でドーパミンによる幸福感を得ようとして、依存症になってしまうこともあります。
神経伝達物質とホルモンの違い
これらの物質は体の中でどのように働いているのでしょうか?
セロトニン・オキシトシン・ドーパミンは、よく『幸せホルモン』と表現されています。
それぞれの物質について調べてみると神経伝達物質と書かれてることもあるので、どちらが正解なのかと疑問に思うかもしれません。
ホルモンと神経伝達物質の分類は、物質によって決まっているわけではなく、どのように働くかでどちらに属するかが変わります。
この3つの物質はホルモンであり、また神経伝達物質としても機能します。
細胞の情報伝達は、神経系と内分泌系との役割分担と共同作業により行われています。
神経系:神経伝達物質によってシナプスを介して情報を行っています。1つの細胞から近くにある1つの細胞にすばやく情報を伝えるシステムです。
内分泌系:ホルモンが血流に乗って、遠く離れた細胞に作用します。ゆっくりにはなりますが、血液によって運ばれるため、遠くの、そして多くの特定の細胞に作用することができます。
このように神経伝達物質とホルモンはそれぞれ異なる方法で細胞間の情報を伝達をし、3つの物質は私たちの感情や行動に影響を及ぼしているのです。
幸せな状態の構築
セロトニン・オキシトシン・ドーパミンがたくさん分泌され体内で作用していれば幸福感が持てるのかというと、実はそうではありません。
どういう状態が幸せと言えるのかについて、再び本の内容に触れていきます。
本の中では、「3つの幸福」を手に入れるためには優先順位があり、多くの人はその優先順位を間違えているから幸せになれない、と説明がされています。
下の図のように土台から積み上げていかないと安定した幸せな状態は築けない、とのこと。
これ関しては、私にも経験があります。
「お金を稼ぎたい」と講座の勉強を始めた頃、勉強は楽しいと感じていました。
この時ドーパミンが多く分泌されていたと思います。
早く何か達成したい、と更にドーパミンによる幸福を求めた結果、家族との時間を減らしてオキシトシンが減り、睡眠時間を削って体調崩しセロトニンまで減っている状態でした。
結果、頑張っているけど精神的に何かつらい、身体も不調、という状態でした。
幸せになるために頑張っていたのに、優先順位を間違えると私のよう逆に幸せから遠ざかってしまうんですね。
多くの人は成功したい、お金が欲しいなどの目に見える欲を幸福として求めすぎてしまいがちですが、大切なのは目には見えにくい土台部分であり、この2つの基礎がしっかりできていないと幸せは積み上がりません。
では一体どうすればこの土台を築き幸せになれるのか?
この本では、その疑問にも答えをくれます。
詳しい内容にまでは触れませんが、それぞれの幸福を手に入れるためにすぐに始められる、現実的で具体的な方法が詳しく示されています。
こちらの本はただの癒しの本ではないので、幸せになる実用的な方法を知りたい方や、何か幸せじゃない気がする、自分にとっての幸せがよくわからない、という方におすすめです。
病気と幸福感
さて、幸せについて考えるきっかけとなった「多幸的」という言葉についてですが、“多幸”は、“非常に幸せなこと”と定義されています。
病気の末期にとても幸せに見えるとはどういうことか、ここまでの情報から考えてみました。
疾患によっては、ドーパミンが過剰に分泌されることにより、多幸感が増すという状態になることもあるようです。
しかし、これは当てはまらないため、今回の多幸的というのは、先生の経験によるものなのだと思います。
幸せの土台部分・セロトニンは健康の幸福です。
病気の人、とりわけ神経難病のように治ることのない疾患を抱えたり、障害と生きていかなくてはならない場合には、この土台がぐらつきやすくはなります。
病気を抱えている人が幸せの構築で優先すべき土台の部分を築くためには、病気である状態に固執せず、その状態を受け入れることが必要であると思います。
そうすることで、身体が健康でなくても心の健康を保つことができ、セロトニンの幸福に結びつき土台が安定していくのではないでしょうか。
このように、最終的に受容ができることで幸福感を取り戻し多幸的に見える、ということなのかもしれません。
また、幸せに見える理由として、認知力が低下した状態になることで幸福感を感じやすくなる、ということも考えられます。
神経難病は疾患にもよりますが、進行とともに認知能力の低下が見られることが多くあります。
病気でつらい気持ちで頭がいっぱいになっていると、喜びは感じにくくなります。
それが病気の進行とともに自分のつらい状態を認識できなくなくなると、日常の些細な嬉しい・楽しいという純粋な感情を直接的に感じ取ることができるため、幸せを感じているように見える、ということなのではないかと思います。
わかりやすく言うと、ぼけてしまって自分の状況がわからないから幸せそう、ということでしょうか。
その状態を幸せと言えるのかというと、正直複雑ではあります。
しかし、少なくとも介護者にとっては、本人が幸せそうに見えることで救われる部分もあると思います。
まとめ
医師から説明された、「多幸的」という言葉をきっかけに、「幸せ」について本の内容に触れながら、科学的な視点から考えてみました。
幸福感の正体が、セロトニン・オキシトシン・ドーパミンという物質ということはわかりましたが、医師の言う多幸的の意味のはっきりとした答えはわかりません。
病気を受容した先に感じる幸福なのかもしれませんし、本人がつらさを認識しづらくなった結果なのかもしれません。
幸福感の正体を明らかにする中で、疾患を抱える人にとっての幸せについては更に深く考えさせられました。
脳の働きや神経難病に関しては、まだ明らかになっていないことが多いため、これからの研究の進展を興味深く追っていきたいと思います。
参照
樺沢紫苑、THE THREE HAPPINESS 精神科医が見つけた3つの幸福、飛鳥新社、2021
坂井建雄、解剖生理学、医学書院、2010
多幸感 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E5%B9%B8%E6%84%9F
KOWA どうして腸は大切なの? https://hc.kowa.co.jp/the-guard-kowa/intestinal-flora/relation/
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