私は、プライベートではどちらかといえば近寄りがたいと思われることが多いです。
明るくて、親しみやすくて、話がうまい、
そういうコミュ力が高そうな人を、うらやましいと思っています。
でも、そんな私でも、職場では「コミュ力高いですよね」と言われることがあります。
盛り上がる輪の中心にいるタイプではないものの、「この人には相談しづらい」とは思われていない気がします。
この、「コミュ力」とは、一体何なのでしょうか。
今回は、看護師という仕事を通して私が感じているコミュニケーションについて考えていきます。
また、この記事では、『具体と抽象』という本で語られている「具体」と「抽象」という概念が、コミュニケーションにどう関わるのかも解説していきます。
なお、本記事は筆者個人の見解・調査に基づいた内容が含まれており、正確性を保証するものではありません。
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看護師とコミュ力
看護師は、コミュニケーション力が強く求められる仕事だと思います。
もちろん、どんな仕事にもコミュニケーションは必要です。
ですが看護師は、その比重が特に大きい職種ではないでしょうか。
患者さんや家族と関わり、医師に報告し、介護職やリハビリ職、相談員、ケアマネジャーなど、多くの立場の人とやり取りします。
退院支援や在宅、施設の仕事になると、その幅はさらに広がるように感じます。
しかも看護師は、ただ人と接するだけではありません。
立場の違う人たちの間に立って、情報をつなぐ役割を担うことが多いです。
だからこそ、看護師に求められるコミュニケーション力は、「親しみやすさ」や「話のうまさ」だけではないのだと思います。
コミュニケーション力とは
コミュニケーションの基本
看護学校で最初の方に、コミュニケーションについての授業がありました。
そこで、コミュニケーションには、
バーバル(言語的:言葉そのもの) と ノンバーバル(非言語的:表情やしぐさ、声のトーンなど)がある、
ということを教わりました。
さらに、まだ医療の専門知識を本格的に学ぶ前に「コミュニケーション実習」というものもありました。
それは、とにかく患者さんと話をすることが中心の実習です。
その実習を通して、傾聴することの難しさ、言葉だけでなく表情・しぐさといったものも大事だという、基本的なことを学びました。
でもそれよりも当時の私は、
「看護師って技術や知識よりもまず、コミュニケーション力が求められる仕事なんだ」
と強く印象に残ったのを覚えています。
看護の実践において
学校で学んだコミュニケーションの基本はとても大切だと思います。
ただ、働き始めると、私は別の難しさも感じるようになりました。
例えば、こんな場面です。
- 説明したのに、患者さんには伝わっていなかった
- 患者さんの言いたいことや医師からの説明の要点がつかめない
- 同じ内容について話しているのに、先輩と話が噛み合わない
私の経験上ですが、急性期の現場より、退院支援や在宅・施設の現場に関わるようになってから、さらにコミュニケーションの難しさを感じています。
関わる職種が増え、同じ言葉でも受け取り方が違う。
前提知識も違う。
その職業・その人それぞれで大事にしているものも違う。
その中で私が、看護師としてのコミュニケーションで必要だと思うようになったのは、次の3つです。
- 相手に合わせて、伝え方と言葉をわかりやすく変える力
- 患者さんとご家族、他職種の思いをつないで、同じ目標で動けるように調整する力
- 土台となる医療・看護の専門知識
だからこそ私は、勉強を続けたり、相手の職種や知識レベルに合わせて言葉を選んだりと、実践してきました。
でも、配慮して説明しているつもりでも、ご家族への説明や同僚への依頼で意図がずれて伝わり、もやもやすることがあります。
そこで私が意識しているのが、「具体」と「抽象」という視点です。
これだけ聞くと、何のことかよくわからないかもしれません。
ここからは、細谷功著『具体と抽象』の内容もふまえながら、「具体」と「抽象」とは何か、そしてなぜそれがコミュニケーションに役立つのかを説明していきます。
具体と抽象
具体と抽象のイメージ
細谷功著『具体と抽象』では、人が「考える」という行為の多くは、具体と抽象の往復でできており、それは人間の思考の基本だと述べられています。
本はこちら↓
「具体と抽象の往復」を理解するために、まずは小学生向けの国語辞典で「具体」「抽象」の意味を確認しました。
具体:目に見えるような形や姿があること
抽象:いくつかのことがらや物から、共通する点を抜き出してまとめること
そもそも多くの人は、
「具体的=わかりやすい」
「抽象的=わかりにくい」
というイメージを何となく持っているのではないでしょうか。
例えば、患者さんのケアについて報告を受けるとき、「患者さんがよく眠れるケアをしました」という報告よりも、
「21時に眠剤を内服」「不安について話を聞く」などのほうが、何を実施したかが具体的で、イメージしやすいと感じます。
ただし、具体的な話がいつもわかりやすいわけではありません。
例えば、看護師からの申し送りがこうなるとどうでしょうか。
「21:00 眠剤内服、21:10 不安の訴えあり傾聴、22:10 再度ナースコールがあり環境調整、23:00 入眠しました」
事実としては正しいですが、出来事が増えるほど聞く側は、「結局何が伝えたいのか」ということがつかみにくくなります。
新人の頃、先輩に患者さんの状況の報告したとき、「・・・・で??」と突っ込まれたありますが、今思うとまさにこれだったと思います。
つまり、具体だけだと、要点が見えにくくなることもあるのです。
具体と抽象の往復
ここで大事なのは、具体と抽象のどちらが優れている、という話ではありません。
この本で強調されているのは、具体と抽象を行き来することです。
具体だけだと、出来事に振り回されやすく、別の場面に応用しにくくなります。
例えば、「Aさんは不眠だったが、昨夜はよく眠っていた」という具体的な出来事に対して、「眠れてよかった」で終わってしまうと、次に再現するのは難しくなります。
反対に、抽象だけだと、正しそうなことでも、現場では「で、何をすればいいの?」となりやすいです。
例えば「Aさんの不眠に対するケアをしました。」だけでは、具体的な行動が見えません。
そこで役に立つのが、次の「具体→抽象→具体」の往復です。
具体:事実や事象を観察する
↓
抽象:その抽象度を上げて「本質」をつかむ
↓
具体:つかんだ本質を、知識や経験と掛け合わせて転用し、別の場面でも使える具体に落としこむ

先ほどの話を「具体→抽象→具体」で往復するとこうなります。
「不眠だったAさんが昨夜は眠れた」という事実に加えて、眠れた日の状況(不安の有無、痛み、環境、日中の活動量など)を集めます(具体)。
それらを整理して「Aさんの不眠は何が影響していたのか」を考え、共通点を見つけます(抽象)。
Aさんの場合、不安が大きな要因だったと分かったなら、次に「不安の評価」や「安心できる声かけ」など、再現できる行動に落とすことができます(具体)
この往復によって、出来事や情報が自分から見えているところだけで終わらず、理解・説明・判断に使える「新しい見方」として整理できるようになるのです。
具体や抽象は相対的
もう一つ大事なのが、具体と抽象は固定されたものではなく、相対的だという点です。
本で説明されている例えは「おにぎり」です。
「鮭おにぎり」「梅おにぎり」と比べれば、「おにぎり」はそれらをまとめた抽象になります。
一方で「食べ物」と比べれば、「おにぎり」は具体になります。

このように、具体と抽象は「もの自体に貼られたラベル」ではなく、何と比べているか・どの高さで見ているかによって変わるものだと述べられています。
つまり、同じ言葉でも、人や状況によって具体にも抽象にもなり得るということです。
すれ違いの正体
この視点で見ると、話が噛み合わない状況の見方が変わり、それがなぜなのかがわかるようになります。
例えば、分かりやすく話したつもりが相手には抽象的すぎたり、逆に丁寧に説明したら具体的すぎて相手には何が言いたいのか伝わらなかったりすることがあります。
こういうすれ違いは、言葉の選び方や話し方をただ変えるだけでは解決しないことがあります。
そもそも「どの抽象度で話をしているのか」が合っていないからです。
同じことは、議論が対立して見える場面にも当てはまります。
本では、
「リーダーは言うことがぶれてはいけない」
「リーダーは臨機応変に対応すべき」
という、一見矛盾する主張が例として挙げられています。
これも具体と抽象の視点で見ると、実は対立しているわけではなく、抽象度がそろわないまま議論している状態だと言えます。
「リーダーの考えは簡単に変えるべきではない」というのは、方針という抽象度の高いレベルの話です。
一方で、その方針を現場で実現するための手段は、状況に応じて臨機応変に変える必要があるというのは、具体のレベルの話です。
つまり、相手の話が理解しにくいときも、議論が永遠に交わらなくなってしまうときも、背景には「抽象度のズレ」が隠れていることがあります。
だからこそ、コミュニケーションにおいてどの抽象度の高さで話をしているのかをそろえることが大切なのだと思います。
看護の現場にて
看護師のコミュニケーションにおいても、この「具体と抽象の往復」が重要だと思います。
それは、関わる職種が多く、相手によって求められる抽象度が違うからです。
私自身、仕事の中では次のように意識しています。
医師には、まず出来事の要点を伝えつつ判断に必要な具体情報を伝える。
介護士には、実際のケア場面が想像できる言葉で伝える。
患者さんやご家族には、生活の言葉に置き換えて、行動レベルで伝える。
同じ内容でも、相手が変われば、伝える形も変わります。
例として、「誤嚥リスクがあります」と説明する場面を考えてみます。
医療者同士なら、この言葉のまま通じます。
しかし、患者さんやご家族には意味が分からないことも多いので、
「飲み込む力が弱っていて、食べた物が気管に入りやすくなっている状態です」
のように言い換えて説明します。
更に必要があれば、具体的なケアの方法をその人のイメージできる形で伝えます。
これは単に、専門用語を避けて分かりやすく言い換えた方がいい、という話ではありません。
抽象的な医学情報を、相手にとって意味のある具体に変換することだと思っています。
逆に、ご家族から「なんとなく元気がないんです」と言われたら、いつから何がどう変わったかの具体的事実を確認して、医療者の判断に使える形にして、報告します。
こちらは、具体から抽象へ上げる作業です。
こうした関わりが日々求められるからこそ、看護師のコミュニケーション力で大切なのは、単に明るいとか話が上手いとかではなく、
相手や状況に合わせて抽象度を調整しながら、具体と抽象を行き来できること
だと思います。
具体を拾って状況をつかみ、その本質に見抜き、相手に届く形にまた具体へ落とす。
この行き来ができると、説明が伝わりやすくなるだけでなく、職種間の連携もスムーズにいきやすくなると感じています。
ヒヤリハットも同じ
この考え方は、コミュニケーションだけでなく、医療安全にも役立ちます。
ヒヤリハット(インシデント)や事故の振り返りの際、具体的な事象にだけ着目すると、だだ「今後注意します」で終わってしまうことがあるからです。
ここでは一例として、
「食事を間違えて配膳してしまい、患者さんが食べる直前で気づいた」
というヒヤリハット事例について考えてみます。
病院でも施設でも、食事の配膳は人の目で確認していることが多いと思います。
食形態、アレルギーや禁食など条件がある中で、取り間違えは重大な事故に繋がる可能性があります。
この取り間違えたという「具体」だけで見ると、対策は次のようなものが挙がると思います。
・ダブルチェックをする
・指差し呼称する
ではここで一度、抽象度を上げて考えるとどうでしょう。
この事例の本質は、判断が人の注意に頼りやすい構造になっていて、忙しさや中断などで注意が散漫になることでミスが起きやすいことです。
そのうえで、最後にもう一度「具体」に戻してみると、
・部屋順など、間違えにくい並べ方にする
・配膳場所で指示がすぐに確認できるようにする
・可能ならバーコード認証などで確認ができるようにする
という対策も考えられます。
このように「具体→抽象→具体」で往復すると、「確認を徹底する」という対策だけで終わらず、別の場面にも応用できる形を考えることができます。
おわりに
看護学校で学んだコミュニケーションの基本は、今でもとても大切です。
ただ、多職種連携に関わるほど、看護師に必要なコミュニケーション力は、もう少し別のところにもあると感じるように感じます。
その大事な視点が、「具体と抽象」です。
具体と抽象を行き来できると、説明が噛み合わない理由が見えたり、現場での経験をほかの場面にも使える形にしたりすることができます。
コミュニケーションの話が医療安全にもつながるのは、そのためだと思います。
私自身は、社交的なタイプではありません。
それでも職場で「コミュ力が高い」と言われたことがあるのは、人と仲良くなるのが上手だからではなく、相手に合わせて言葉と情報の抽象度を調整し、届く形に変えることを意識しているからなのかもしれません。
とはいえ、実際はうまくいかないと反省することのほうが多いです。
コミュニケーション力とは何かの答えは一つではありません。
でも、どんな仕事においても「具体」と「抽象」という視点を持つだけで、やり取りが少しスムーズにいくのではないかと思います。
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参考文献
ベネッセコーポレーション『チャレンジ小学国語辞典』(2017)
細谷 功『具体と抽象』dZERO、(2014)
