現在訪問している施設に、肝不全のためアミノレバンという薬を内服している方がいます。
先日この方について、「アミノレバンは1日の中でいつ内服するのがいいのか」を検討しました。
そのとき改めて調べたアミノレバンという薬について、肝臓の働きなども合わせて解説していきます。
アミノレバンとは
アミノレバンは、肝機能が低下した人の栄養補給を目的としたアミノ酸製剤です。
画像引用元:https://www.otsuka-elibrary.jp/product/di/amb/index.html
粉末状の薬で、水に溶かしてプロテインドリンクのように服用します。
肝臓について
肝臓の機能低下とアミン酸の必要性を結びつけるべく、まずは肝臓の機能と構造について見ていきます。
肝臓は、体内最大の臓器で、大人では1〜1.5kgの重さがあり、右寄りの上腹部に位置しています。
肝臓と言えば「沈黙の臓器」や、お酒でダメージを受けるというイメージを持つ方が多いかと思いますが、肝臓にはアルコールの分解以外にも様々な機能があり、人体の代謝機能の中心であるとても重要な臓器です。
その機能の理解のために、肝臓の解剖をもう少し説明しておきます。
肝臓は他の臓器と違い、血液を送り込む血管が2種類あります。
通常、酸素や栄養を運ぶ血液は動脈を通じて各臓器に流れ、使い終わった血液は静脈を通って心臓に戻るという循環です。
肝臓にもこの血液循環があり、肝動脈から酸素を含む血液が供給されます。
しかし、肝臓にはもう一つ「門脈」という血管により、消化管からの血液が流れ込む仕組みがあります。
この門脈に集められた血液は、消化管で吸収された栄養や老廃物を含んでおり、それらの物質が肝臓で代謝されるのです。
以下は具体的な肝臓の機能です。
- 炭水化物代謝: 肝臓は、グルコースをグリコーゲンとして貯蔵し、必要に応じて血糖値を調節します。
- 脂質代謝: 肝臓は、脂肪酸の酸化、コレステロールの合成、リン脂質や脂肪酸の生成に関与します。
- タンパク質代謝: 肝臓は、血漿タンパク質(アルブミンや凝固因子)を合成し、アミノ酸の分解とアンモニアの除去を行います。
- 解毒機能: 肝臓は、薬物や毒素を無害化し、体外へ排出する役割も担っています。
- 胆汁の生成と分泌: 肝臓は、脂肪の消化を助ける胆汁を生成し、胆嚢を介して十二指腸へ分泌します。
- 栄養の貯蔵: 肝臓は、グリコーゲン、ビタミン(A、D、B12)、鉄などを貯蔵し、必要な時に放出します。
ちなみに「沈黙の臓器」と呼ばれている理由は、肝臓は約70%が損傷しても再生可能で、痛みを感じにくい構造のため、病気が進行しても自覚症状が現れにくいからです。
アミノ酸とは
次にアミノ酸とは何かについて説明していきます。
<アミノ酸の基本構造>
画像引用元:https://yaku-tik.com/yakugaku/sk-4-3-1/
基本となる炭素に、アミノ基(-NH₂)、カルボキシル基(-COOH)、水素(H)、それに官能基(R)が結合しています。
アミノ酸は、1つの物質の中に酸性の部分(カルボキシル基)と塩基性の部分(アミノ基)を併せ持っています。
アミノ基と酸を持っているから、「アミノ酸」という名前がついているのです。
タンパク質は、私たちの体の筋肉、皮膚、血液だけでなく、遺伝子や酵素、免疫抗体も作り出していますが、このタンパク質は、たくさんのアミノ酸が結合してできています。
体の中では常に、タンパク質がアミノ酸に分解→別のタンパク質を合成→再び分解、という代謝がくり返されています。
体にとって重要であるアミノ酸は20種類ほどありますが、そのうちいくつかは体内で合成できず、必須アミノ酸と呼ばれています。
そのため食事などから摂取する必要があるので、市販でも、アミノ酸を補給できるドリンクなど多く売っていますよね。
肝臓の機能とアミノ酸
肝機能低下の状態では、肝臓は常にエネルギー不足になります。
また、肝臓で必要なタンパク質やエネルギーを十分に作り出せなくなり、こうした状態が長引くと、血中のアミノ酸のバランスに影響を及ぼします。
BCAAとAAA
肝不全の人の血液を分析すると、BCAA(分枝鎖アミノ酸)の減少とAAA(芳香族アミノ酸)の増加が見られます。
BCAAとは、バリン、ロイシン、イソロイシンの3種類のアミノ酸を指します。
タンパク質の合成、栄養の貯蔵、アンモニアの解毒に関わる大事なアミノ酸です。
BCAAは主に筋肉で代謝されるため、肝機能低下時でも体内でアンモニア解毒やタンパク質合成に役立ちます。
<バリン>
<ロイシン>
<イソロイシン>
画像引用元:Wikipedia
AAAとは、フェニルアラ二ン、チロシンの2種類です。
主に肝臓で代謝されるため、肝機能が低下している場合には処理しきれず、過剰に蓄積されてしまいます。
<フェニルアラ二ン>
<チロシン>
画像引用元:Wikipedia
このBCAAとAAAのバランス、BCAA/AAAは「フィッシャー比」と呼ばれます。
肝機能低下によるBCAA不足
肝臓が正常に機能しないと、代わりに筋肉を使ってBCAAをエネルギー源や解毒手段として利用し始めます。
これにより、筋肉でのBCAA消費が増え、筋肉自体が分解されてしまうことで筋力低下に繋がり、体内のBCAA量が不足し、さらなる悪循環に陥ります。
さらに、筋肉でBCAAを生成する際には同時にAAAも作られますが、肝機能が低下しているため、血中でAAAが増加してしまいます。
BCAAが減ってAAAが増える、つまりフィッシャー比が低下することは、肝性脳症のリスクを高めます。
肝性脳症とは、肝臓でアンモニアの解毒が行えなくなり、アンモニアが脳に到達して起こる意識障害です。
なぜAAAの増加も肝性脳症に関係するのかというと、BCAAやAAAといった必須アミノ酸は神経伝達物質の原料として欠かせない物質であるため、そのバランスが崩れ脳の中に大量のAAAが入ってくることで、神経伝達物質の異常が生じるからです。
アミノ酸補給の必要性
ここまでの情報から、肝機能低下時にはBCAAを多く摂り、AAAを控えるとよいことがわかりました。
自然の食べ物から都合のいいバランスで効率良く摂取することは難しいため、BCAAが豊富に含まるアミノレバンを服用する必要があるのです。
アミノレバンでBCAAを補充することで、エネルギー不足を補い、タンパク質を合成し、アンモニアを分解することができます。
そしてBCAAが増えてフィッシャー比が改善することで、肝性脳症の発症も予防することができます。
アミノレバン服用のタイミング
アミノレバンは寝る前に飲むのがよいとされていますが、その根拠と今回の事例について説明していきます。
肝不全の人は、肝臓でグリコーゲンを貯めておけないため、エネルギーが不足します。
そのため、健康な人と比べて長時間の絶食に耐えにくく、例えば夜間12時間の絶食が、健康な人の3日間の絶食に匹敵すると言われています。
そのため、肝不全の人は一晩眠ると、肝臓が血中にグリコーゲンを供給できない飢餓状態に陥りやすく、倦怠感や筋肉分解が進んでしまいます。
この対策として「夜食療法」が推奨されており、寝る前に軽食を摂ることで、夜間のエネルギー不足を防ぎ、栄養状態の改善や体力の維持ができます。
そして夜間はタンパク質合成が盛んなため、BCAAの補充も重要です。
アミノレバンはBCAAが豊富なだけでなくエネルギーが約200kcalあるため、就寝前に服用することで栄養補給と肝機能のサポートに有効とされています。
施設にいらっしゃる肝不全の利用者さんにも、初めは寝る前に飲んでもらっていました。
しかし、アミノレバンは少なめに作っても100mlくらいの量があり、まずいと言って飲みきるのに時間がかかり、夜に残してしまったという報告を聞くことも増えていました。
夜勤帯に寝る前の服用を促す手間も難しかったため、薬剤師さんとも相談の上、今は昼の内服に切り替え飲みきることができています。
薬効を考えることも必要ですが、無理なく続けられることが長期的な効果につながるため、生活リズムに合わせた内服方法を考えることも大切ですね。
まとめ
今回、肝不全の利用者さんのアミノレバンを内服していただくタイミングを見直し、薬の特徴や効果について再度確認ができました。
肝機能低下している場合は、夜は飢餓状態に陥りやすく、筋肉分解やエネルギー不足を防ぐためにも眠前の内服がいいとされています。
しかし、その人の生活リズムや環境に合わせて昼間の服用に切り替えたことで、無理なくアミノレバンの効果を得ることができています。
さらにスタッフと利用者さん両方のストレスも減りました。
看護師は利用者さんを近くで観察している強みがあるため、薬のきちんとした知識を持つことで、今回のように利用者に合ったいいケアを提供していきたいです。
参照
大塚製薬“栄養療法が肝硬変の予後を決定する”:https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/liver-cirrhosis-nutritional-therapy/nutrition-and-prognosis
大塚製薬医療関係者情報サイト:https://www.otsuka-elibrary.jp/product/di/amb/index.html
肝性脳 症 にお け る髄 液 中性 ア ミノ酸 濃 度 の異常 と
分枝 鎖 ア ミノ酸輸 液 の影 響:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo1960/23/6/23_6_611/_pdf/-char/ja
Wikipedia“アミノ酸”: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%8E%E9%85%B8
Hall, J. E., & Guyton, A. C. (2006). ガイトン生理学 第11版. エルゼビアジャパン.
落合慈之. (2014). 消化器疾患ビジュアルブック 第2版. 学研メディカル.
池田和正.(2006).図解生化学.オーム社
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