最近関わった方で、食べられなくなったため点滴をしていましたが、施設入所と同時に点滴をしないと決断した方がいました。
病院と違い、在宅や施設だとそういった選択をされる方もいます。
その方はずっと微熱が続いていたので、心配した介護士さんやご家族から「熱があるけど大丈夫?」「なぜ微熱が続いてるの?」と聞かれました。
この微熱は脱水によるものだったと思われます。
今回は、脱水により微熱が生じる理由について、水の働きにも着目して解説していきます。
体内の水分
人の体の約60%は水で構成されています。
生体内では絶えず化学反応が起こっていますが、それらの反応は化学物資が水に溶けた状態で起こっています。
体内で化学反応を起こす物質はたくさんありますが、これほど多様な物質を溶かせるのは水しかなく、水は生体にとって有利な物質なのです。
その理由は、水の化学的構造にあります。
体温調節と水
まず、体内の熱の移動や、体温調整に大きく関わっている水の性質について見ていきます。
水の蒸発熱
水分子(H₂O)は2つの水素原子と1つの酸素原子から成り立ち、酸素は水素よりも電子を強く引き寄せるため、酸素側が負の電荷(δ−)、水素側が正の電荷(δ+)を帯びています。
この極性により、水分子同士は、酸素のδ−部分が他の水分子の水素のδ+部分と引き合い、水素結合を形成します。
この水素結合があるため、水は蒸発熱が高くなります。
蒸発熱とは、液体が気体に変わる際に必要なエネルギー(熱)のことです
水素結合は比較的強い結合であるため、水が液体から気体へ変化する際には、この結合を断ち切るために多くのエネルギー(熱)が必要です。
つまり、水が蒸発するときには周囲から大量の熱を奪います。
そのため、発汗することで、汗が皮膚から熱を奪い、体温を下げることができるのです。
水の比熱
また、水の比熱が大きいことも水素結合が関係しています。
比熱とは、1gの物質の温度を1℃上げるために必要なエネルギー量のことです。
温度が上がると、分子の運動が活発になり、水分子は互いに動こうとしますが、この水素結合が分子の自由な運動を妨げます。
そのため、水の温度を上げるには、水素結合を壊すためのエネルギー(熱)が必要となり、水の比熱が大きくなるのです。
体の多くが水分で構成されているため、水の比熱が大きいことが、体温の変化を小さく抑えることに繋がります。
体温調節の仕組み
体温の調節は視床下部にある体温調節中枢によって行われています。
体内の熱は、体の核心部で産生され、それが皮膚を通じて外へ放出されます。
皮膚に熱を運ぶ役割を果たしているのは血液です。
また、皮膚から蒸発する際に熱を奪い、体温を下げる役割をしている汗も、血液から血球を取り除いた成分である血漿が材料となっています。
このように、血液、つまり体内の水分が、熱を放散するために非常に重要な役割を果たしていることがわかります。
そのため脱水状態になると、体温調節のプロセスが正常に機能しなくなるのです。
脱水から微熱が生じるメカニズム
ここまで、水の性質や体温調節における役割について詳しく見てきました。
これらを踏まえて、脱水によって微熱が生じる具体的なメカニズムを簡単に説明します。
脱水によって体内の血液量が減少すると、皮膚への血流も減り、体内の熱を皮膚に運んで放散するプロセスが妨げられます。
さらに、血流が低下することで、発汗が減少します。
汗は皮膚から蒸発する際に大量の熱を奪い、体温を下げる役割があります。
しかし、脱水状態では発汗が減り、結果的に体内に熱がこもりやすくなり、体温が上昇して微熱が発生します。
まとめ
脱水による微熱は、体温調節がうまく機能しなくなることで生じます。
体内の水分は、血液量の維持や発汗に欠かせないものであり、血流の低下と発汗の減少によって体内の熱が放散されにくくなり、体温が上がるのです。
高齢者において、特にこの暑い時期には、発熱=感染症でなく、脱水の可能性も考えなくてはなりません。
今回の記事は介護士さんからの質問がきっかけとなりましたが、今の職場では介護士さんとのコミュニケーションの難しさを感じることが多くあります。
介護士さんの医療的な知識には人によって差があるため、どの程度の専門用語を使って説明するかの判断が難しいんですよね。
今は病院で働いていた時よりも違う立場や視点を持つ職種との連携が増えました。
そのため、適切な言葉を選びわかりやすく説明することを心がけていますが、そのためには、自分自身が知識をしっかりと理解していないと、うまく説明できないと感じています。
参照
三島勇ほか. 上田壽監修. 水の化学. ナツメ社, 2001
池田和正.図解 基礎生化学 . オーム社 .2006
ガイトン AC, ホール JE. ガイトン生理学 原著第11版. 御手洗玄洋,(監訳). エルゼビア・ジャパン, 2010.
テルモ体温研究所:https://www.terumo-taion.jp/
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