口腔ケアに効果的な電解水

寝たきりの高齢者や食事ができない方にとっても、口腔内の清潔を維持することはとても重要です。

口腔ケアに関する商品は、歯磨き粉や保湿ジェル、洗口液など、たくさんの種類があります。

その中で、利用者さんの家族から勧められ私自身も使用している、口腔洗浄剤・エピオスウォーターについて、関連した特許内容を含めて解説していきます。

口腔ケアの重要性

多くの方が歯磨きはご飯を食べてからすると思います。

では、体調が悪くて何も食べれない日は歯磨きしなくてもいいのかというと、それは違います。

実は食べることができない場合こそ、誤嚥性肺炎の予防などの理由から、口の中を清潔に保つことがより大切なのです。

現在、口から食べれない寝たきりの方の看護にも携わっていますが、口腔ケアは重要なケアの一つとして力を入れています。

高齢化が進んでいる昨今、お口の健康がとても注目されています。

令和6年度の介護報酬の改定によって、口腔連携強化加算という加算が新設されました。訪問看護と歯科とが連携すると報酬が増えるというものです。

加算新設の理由は、「口腔内を正常・清潔な状態に保っておくことは高齢者の健康に密接に関連するため」とされています。

この動きからも、高齢者のケアにおいて口腔内の健康から疾患などを予防していくことが重要視されていることがわかりますよね。

エピオスウォーターとは

エピオスウォーターは洗浄・殺菌効果が高く安全な口腔ケア用の水です。

市販はされておらず、歯科医院で手に入れることができます。

成分

主成分は次亜塩素酸です。

超純水と塩を電気分解して生成された次亜塩素酸により、様々な効果を持っています。

次亜塩素酸

次亜塩素酸はの化学式は HClO、水素原子と塩素原子が酸素原子に結合した構造を持ちます。

似た名前のものに次亜塩素酸ナトリウムがあり、何となく危険な物質のような感じもします。

しかし、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)はハイターの主成分で強いアルカリ性を持つ一方、次亜塩素酸(HClO)は人間の血液中の白血球の一種「好中球」でも生成されており、弱酸性で安全に使用できる殺菌成分です。

次亜塩素酸の効果

次亜塩素酸には、口腔内への作用として、殺菌作用、消臭作用、バイオフィルムの破壊という効果があります。

これらの効果は、次亜塩素酸の強い酸化力によるものです。

次亜塩素酸を構成している元素のうち、酸化力を発揮する鍵となるのは塩素(Cl)です。

Clは最外殻の電子が1つ不足しているため不安定で、電子を受け取りCl⁻になろうとします。

そしてHOCl内では電気陰性度の高いOがClの電子を引き寄せるため、更に不安定な状態になっています。

そのため、とても不安定なClは、安定するために周囲の物質から電子を奪おうとします。

この力、つまり他の物質を酸化させる力が、酸化力です。

この強い酸化力は、具体的に以下の効果に結び付いています。

殺菌作用: 細菌やウイルスの細胞膜を酸化し膜を破壊することで死滅させます。

・消臭作用: 口臭の原因となる揮発性硫黄化合物を酸化することで、悪臭成分を無臭に変化させます。

・バイオフィルムの破壊: 細菌が作り出す保護膜であるバイオフィルムを酸化により分解し、細菌を外部からの攻撃しやすくします。

そのため、安全性が高く、次亜塩素酸を含むエピオスウォーターは、口腔ケアに最適とされています。

関連特許

電解水を使用した口腔洗浄剤についての以下の特許明細書を読みました。

公開番号:特開2015-34134 公開日:2015.2.19 発明の名称:液体口腔洗浄剤

従来の電解水を用いた液体洗浄剤の課題

  • 電解水の殺菌効果が長期間持続せず、保存性が低い。
  • 口に含んだときに強い塩素臭があり、風味が悪い。
  • 電解水が口腔ケアに使用される器具を腐食させる可能性が高い。

この発明では、これらの課題を解決するために、酸化還元電位が正の電解水アニオン性界面活性剤の組み合わせが提案されています。

これらの成分について詳しく見ていきます。

酸化還元電位が正の電解水

酸化還元電位(ORP)は、物質が電子を受け取るか放出するかを示します。

この発明で使用されているのは、このORPが正の値(700〜900mV)を示し、強力な酸化力を持つ電解水です。

酸化還元電位は、測定電極と基準電極の電位差をORP計で測定します。

引用元:https://www.bkb.co.jp/topics/redox-potential-test-flow/

測定電極(白金電極など)の電位が基準電極(比較電極)に対して高いか低いかによって、ORPの値が決まります。

具体的には、測定電極と溶液中の物質との間の電子のやり取りにより電位が変化します。

たとえば、酸化剤が含まれている溶液に電極を入れると、酸化剤は電子を奪う性質を持つため、測定電極の金属から電子を奪い、測定電極の電位は正に傾きます。

つまり、酸化還元電位が正である電解水は、その溶液中に酸化剤が存在し、電子を奪う性質が強いということです。

電解水には酸化還元電位が正である次亜塩素酸などが含まれ、先に説明した殺菌や消臭などの効果を生んでいます。

アニオン性界面活性剤

明細書によると、アニオン性界面活性剤が、洗浄力の強化電解水の分解抑制金属腐食の防止をもたらすとされています。

界面活性剤とは、分子中に疎水基(油になじむ部分)と​親水基(水になじむ部分)という異なる性質を持つ構造を持つことで、水と油のように通常は混ざらない物質同士を混ざりやすくする物質です。

画像引用元:https://jp-surfactant.jp/surfactant/nature/index.html

アニオン性界面活性剤は、親水基の部分に負の電荷を持つため、正の電荷を持つものを引き寄せます。

その性質から、口腔内に存在する正に帯電した細菌や汚れを強く引き寄せ、洗浄力が強化されます。

またアニオン性界面活性剤は、次亜塩素酸の分解を抑制するため、長期間にわたって殺菌効果を維持する役割を持っています。

さらに、界面活性剤が金属の表面に保護膜を作り金属腐食を防ぐため、口腔ケア製品に含まれる金属の器具などへの影響を減らし安全に使用することができます。

電解水の製造方法

電気分解

次亜塩素酸を含む電解水は、明細書に記載されているように、2室以上に仕切られた電解槽を用いて塩化ナトリウムなどを電気分解することで製造されます。

電気分解とは、外部からのエネルギーによって自然には起こりにくい酸化還元反応を無理矢理起こし、その反応により物質が分解されたり、新しい物質が生成されたりすることです。

1室型

電気分解の仕組みについて、塩化ナトリウム(NaCl)を例に説明していきます。

1室型では、陽極と陰極が同じ電解槽内にあり、NaCl水溶液中で電気分解が行われます。

画像引用元:http://www.act-hokkaido.com/jpn/jiasui.htm

陽極では、Cl⁻が酸化され、塩素ガスが発生します。(2Cl⁻→Cl₂+2e⁻)

陰極では、水が還元されて水素ガスとOH⁻が生成されます。(2H₂O+2e⁻→H₂+2OH⁻)

このとき、陰極付近は、Na⁺+OH⁻→NaOH という反応により、NaOH(水酸化ナトリウム)が生成されます。

そして陽極付近では、Cl₂ + H₂O → HCl + HClO という反応がおき、次亜塩素酸(HClO)が生成されますが、この方法では、他の成分が混じった状態の次亜塩素酸しか得られません。

このため、電解水の製造には2室以上の電解槽が用いられています。

2室型

下のような2室型の電解槽では、イオン交換膜を用いて陽極と陰極を分けることで、各反応が独立して進みます。

画像引用元:http://www.act-hokkaido.com/jpn/jiasui.htm

イオン交換膜とは特定のイオンだけを通す膜で、必要なイオンを移動させる一方で、他のイオンや生成物が混ざりません。

2室型の電解槽では、イオン交換膜を用いて陽極と陰極の間を分けているため、各部屋に生成される物質が混ざることを防ぎます。

基本的な反応は1室型と同じですが、2室型ではイオン交換膜によってこれらの生成物が分けられ、次亜塩素酸を含む酸性電解水と水酸化ナトリウムを含むアルカリ性電解水として、それぞれの部屋に生成されます。

しかし、2室型の電解水にはNaClが混ざっているため、より高純度な次亜塩素酸水やアルカリ電解水を得るためには、3室型の電解槽を用いることが好ましい、とされています。

3室型

3室型の電解槽は、陽極室陰極室中間室の3つの部屋に分かれています。

画像引用元:http://www.act-hokkaido.com/jpn/jiasui.htm

3室型電解装置は、電極の間を2つの膜で区切り、中央に食塩水を入れ、両端の陽極室と陰極室には純水を入れます。

この装置では、陰極側の膜は陽イオン(Na⁺)のみ・陽極側の膜は陰イオン(Cl⁻)のみが通過します。

そのため、Na⁺は陰極側へ、Cl⁻は陽極側へそれぞれ移動し、各電極での反応が進行します。

陽極側で酸性電解水、陰極側でアルカリ電解水が生成される点は2室型と同じですが、3室型では、陽極側の酸性電解水にはNa⁺が含まれず、陰極側のアルカリ電解水にはCl⁻が含まれません。

これにより、より純度の高い電解水を生成することができます。

まとめ

実際に使っている次亜塩素酸を含むエピオスウォーターについて、その効果や特許の技術を通して化学の知識の確認ができました。

特に3室型の電解装置、イオン交換膜を使うことで、より高純度で効果のある電解水が得られることは新たな学びになりました。

電解水の効果の根拠についてきちんと理解できたことで、より適切にケアに取り入れることができ、他の利用者の方にもおすすめしていけそうです。

参照

特開2015-34134、カイルール マティン、2015年2月19日、「液体口腔洗浄剤」

パナソニックエコシステムス株式会社:https://panasonic.co.jp/hvac/pes/technology/hocl/principle

尾北環境分析株式会社:https://www.bkb.co.jp/topics/redox-potential-test-flow

日本界面活性剤工業会:https://jp-surfactant.jp/surfactant/nature/index.html

次亜塩素酸水:http://www.act-hokkaido.com/jpn/jiasui.htm

令和6年度介護報酬改定について:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001300143.pdf

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