糖尿病は世界的に増加している疾患の1つです。
日本においても糖尿病とその予備軍は5~6人に1人と言われています。
直接の死因にはなることはほとんどありませんが、様々な合併症を引き起こすこわい病気です。
実際どの科にも糖尿病を持っている人がおり、在宅の現場でも糖尿病を抱えながら生活している人はたくさんいます。そのため、どこで看護師をしていても糖尿病の知識は必須です。
最近糖尿病の既往がある方に立て続けに当たっているため、糖尿病について改めて少しずつ知識の補充をしています。
自分の知識のまとめとして、糖尿病の糖や脂肪の代謝・pHバランスの変化・ケトアシドーシスについて解説していきます。
糖尿病とは
糖尿病について簡単に説明すると、体が血糖値(血液中のグルコース濃度)をうまく調整できなくなり、慢性的に血糖値が高くなってしまう病気です。
「糖尿病」という名前の通り、血液中の糖が多すぎて尿に出てしまう状態です。
英語では「Diabetes Mellitus」 というため医療現場ではDMと呼ばれますが、これはギリシャ語が語源で「蜜のように甘い尿が常に出る」という意味です。
原因は、インスリンという血糖値を下げるホルモンの分泌不足や、インスリンがうまく働かなくなることにあります。
では、この疾患をより理解するために、代謝について解説していきます。
糖の代謝
代謝とは
私たちは生きるために食物から栄養を摂取しています。
その栄養の中でご飯やパンなどの炭水化物は、もっとも重要なエネルギー源です。
炭水化物は消化の過程で単糖類まで分解され、小腸から吸収され、門脈を通って肝臓に送られ代謝され、その後血液によって全身の細胞に運ばれます。
肝臓の働きに関してはこちらの記事内で少し解説しています。→アミノレバンの内服時間
そもそも代謝とは何か。食べても痩せてる人のことを「代謝がいい」なんて言いますが、代謝というのは、「生体で起こる化学反応」のことです。
その反応には、
合成する反応=同化
分解する反応=異化
があります。
ここで起こるのは細胞呼吸という異化反応の1つです。
具体的には、細胞に運ばれた糖を分解し体に有用なエネルギーを取り出す反応が、ここで言う糖の代謝です。
そしてこの糖の代謝で最も重要なことは、生体エネルギーであるATPを産生することにあります。
ATPとは
ATPとはAdenosine Triphosphate(アデノシン三リン酸)という化学物質です。
<ATPの化学構造>
画像引用元:Wikipedia
アデノシンに3つのリン酸が結合した構造をしています。
ATPは高いエネルギーを持ち、生命活動に欠かせない物質ですが、そのエネルギーの高さの秘密は化学構造にあります。
リン酸の酸素(O)はリン(P)よりも電気陰性度が高く電子を引きつけやすく、OとPの間で酸素側に電子が引き寄せられます。
その結果、Oがわずかにマイナス、Pがわずかにプラスという状態が生まれます。
ATPの分子では、マイナスの電荷を持つ酸素(O)同士が隣接していて、互いに強く反発し合ったままの状態でリン酸が結合しています。
そのためリン酸が外れると、この反発力が一気に解放され、大きなエネルギーが放出されるのです。
これがATPが高エネルギー物質である理由です。
ATPは活性運搬体としてこの高いエネルギーを他の分子に渡すことで、生体内のさまざまな反応を促進しています。
生体内の反応、つまり生命維持そのものを支えている原動力、これがATPの正体です。
ATPの生成
では、このATPはどのように作られるのでしょうか。
ATPが生成されるプロセスには、その環境に応じていくつかの経路があります。
好気的代謝
好気的代謝は酸素を利用してATPを生成し、細胞呼吸とも呼ばれ、最も効率よくエネルギーを生成できるプロセスです。
その反応の図を見ると、反応式が何段階もありとても複雑そうですが、細胞呼吸の本質は、グルコースが酸素と反応し、ATPとしてエネルギーを生み出す酸化反応の連続です。
例えば砂糖を直接燃やしてしまうような単純な反応でもエネルギーは取り出せそうですが、このような複雑な段階があるのには理由があります。
たくさんのエネルギーが一気に放出されてしまうと、細胞はすぐに全部は使いきれないため、余ったエネルギーは熱として失われてしまいます。
体内ではこれを避けるために、グルコースが段階的に分解され、少しずつエネルギーを運ぶ分子(NADHやFADH₂など)に渡していきます。
そうすることでグルコースのエネルギーを余すことなく、細胞の活動に使うことができるというわけです。
この細胞呼吸には3つの段階があります。
画像引用元:Wikipedia
解糖系
細胞質基質でグルコース(C₆H₁₂O₆)が分解され、2分子のピルビン酸(C₃H₄O₃)になります。この過程で少量のATPが作られ、同時にNADHというエネルギー運搬分子が生成されます。解糖系は酸素を使わずに進行します。
TCA回路(クエン酸回路)
ミトコンドリアに入ったピルビン酸はアセチルCoAに変換され、TCA回路に入ります。ここでアセチルCoAは、次々と変化しながら分解され、その過程で二酸化炭素(CO₂)が放出され、NADHとFADH₂が生成されます。FADH₂もNADHと同じくエネルギー運搬分子です。これらは後の電子伝達系で使われ、さらに多くのATP生成に繋がります。
電子伝達系
ミトコンドリア内膜にある電子伝達系では、NADHとFADH₂が電子を供給し、酸素と結びついて水(H₂O)を生成します。この電子の流れから得られるエネルギーで水素イオン(H⁺)が膜を越えて移動しますが、それによってH⁺の濃度差が生まれます。この濃度差を解消するために、H⁺は再び濃度の高い膜間腔から濃度の低いミトコンドリア内部へ戻ろうとします。この際、H⁺がATP合成酵素を通過し、そのエネルギーによってATP合成酵素が動き出し、ATPが大量に生成されます。
嫌気的代謝
嫌気的代謝は酸素を使わずにエネルギーを生み出す代謝で、酸素が不足している状態や急激なエネルギーが必要な場合に起こります。
嫌気的代謝では、解糖系のみが機能します。
グルコースから生成されたピルビン酸は、酸素の供給が十分であれば酸化されますが、酸素が不足していると酸化されずに乳酸となります。
この過程は細胞呼吸に対して、「発酵」と呼ばれます。
糖尿病の症状
ATP生成にはグルコースが必要ですが、単に糖分をたくさん摂ればATPが効率よく生成されるわけではありません。
どんな体にいいものでも摂りすぎは良くないと言われますよね。
どんな物質も体にとって適切な量は決まっており、糖分もその範囲を超えて過剰に摂るとこで、体に悪影響及ぼします。
血糖値(血中のグルコース濃度)は通常70~140mg/dLの範囲に保たれており、これはホルモンや神経系によって調整されています。
通常、食後の血糖上昇はインスリンというホルモンが十分に分泌されることで抑えられますが、糖尿病では、インスリンの分泌が不足したり細胞がインスリンに反応しにくくなるために、血糖値の調整が難しくなります。
糖尿病の初期症状としては、口渇、多飲・多尿、倦怠感などがあります。
一見あまり深刻ではなさそうですが、糖尿病の恐ろしさはその合併症にあります。
高血糖では血管の壁に糖がくっつきやすくなり、それが原因で血管が硬くなったり傷ついたりしてしまうため、治療をせず放置すると、神経や血管が傷つきます。
その結果、視力低下や腎不全、手足の感覚異常などの合併症が生じ、重症化すると失明や足の切断が必要になることもあります。
ケアをしていてわかりやすい特徴は、傷の治りにくさですね。
これも、高血糖が続くことが原因です。
血管が硬なって血流が悪くなり、その結果、傷を治すための酸素や栄養が十分に届かなくなることで傷の治癒が遅くなるのです。
インスリンとは
インスリンとは、膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、血液中の糖(グルコース)を細胞に取り込みやすくし、血糖値を下げる働きがあります。
これにより、細胞がエネルギーを効率よく作れるようになり、肝臓や筋肉でエネルギーとして蓄える働きもサポートします。
血糖値を調整するホルモンには、血糖値を上げる働きを持つホルモンがいくつかありますが、血糖値を下げるのはインスリンのみです。
これには理由があります。
脳は通常、エネルギー源としてグルコースのみを利用するため、血糖が下がりすぎると脳神経に影響を及ぼす可能性があり、生命の危機的な状況ともいえます。
そのため、人間は飢餓に耐えながら進化する中、血糖を上げる仕組みの方を充実させて発達してきたのです。
しかし、今は日本など多くの国で食べ過ぎ傾向であるため、インスリンのみでは過剰な糖に対応できず、糖尿病が増えているというわけです。
糖尿病ケトアシドーシス
糖尿病ケトアシドーシスとは
糖尿病ケトアシドーシスとは、ケトン体によってアシドーシスになった状態です。
具体的には、高血糖による脱水と、酸性の物質であるケトン体の蓄積で血液が酸性に傾くことにより、意識障害を引き起こす病態です。
通常インスリンが十分に分泌されると、血中のグルコースは細胞に取り込まれ、エネルギー源として利用されます。
しかしインスリンが不足すると、血管内は糖でいっぱいであるのにも関わらず、細胞では糖が足りないと勘違いし、飢餓状態の時の代謝機能が発動します。
入ってくるグルコースがなくなると、まずは肝臓のグリコーゲン(肝臓に蓄えられたグルコースの貯蔵形態)を分解したグルコースを使用します。
それがなくなると、肝臓でグリコーゲン以外のものからグルコースを合成し足りない糖を補います。
これを糖新生と呼びます。
他の物質で糖を作ることは、通常とは異なる緊急時の代謝であるため、この状態が続くことで体には負担がかかって影響が出てきます。
その1つが、脂肪の代謝によって起こる糖尿病ケトアシドーシスです。
ケトン体と脂肪の代謝
糖尿病ケトアシドーシスの原因となるのは、脂肪の代謝により生成されるケトン体という酸性の物質です。
体内に存在するケトン体にはアセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンなどがあります。
画像引用元:https://www.mitsuoka-clinic.or.jp/jp/anti_aging/aa_tip/AAtip81_90/aatip83_ketonbody.html
ケトン体は脂肪の合成や分解における中間代謝産物であるため、通常血液中にはほとんど存在しません。
ケトン体は、体内のグルコースが不足してエネルギー源が必要なときに、以下のように生成されます。
画像引用元:https://narukinhonda.com/naruhealth/antiaging/ketone-production.html
まず、脂肪細胞に蓄えられている中性脂肪が分解され、脂肪酸として肝臓へ運ばれます。
肝臓に運ばれた脂肪酸はアシルCoAに変換され、カルニチンの助けを借りてミトコンドリア内に移動します。
ミトコンドリア内で脂肪酸はβ酸化によりアセチルCoAに分解されます。
「β酸化」とは脂肪酸を酸化してアセチルCoAを生成する細胞内の代謝経路のことで、ここでエネルギーを生成する準備が整うわけです。
そしてアセチルCoAがTCA回路に入り、この後は糖の代謝と同様にATPが生成されます。
これでエネルギー不足が解消!! と思いきや、実はここで重大な問題があります。
最も重要な脳には、有害なものを入れないようにするための血液脳関門というバリアがあるため、分子の大きな脂肪は通過できない仕組みとなっています。
つまり脳には、グルコースの代わりの脂肪酸を届けることができないのです。
そこでケトン体が活躍します。
肝臓で作られたアセチルCoAの一部は「アセト酢酸」や「β-ヒドロキシ酪酸」といったケトン体に変換されます。
ケトン体は分子が小さいため血液脳関門を通過することができ、脳でグルコースの代わりにエネルギー源として使用される、という仕組みで、脳のエネルギー不足を解消しているのです。
体の調整機能
ケトン体は悪者と思いきや、脳にとってグルコースに代わるエネルギー源となるからいいものでは‥と思えてきているのではないでしょうか。
しかし、どんなことでも通常から外れた状態が続くと何かしら体に影響が出てきます。
ケトン体は、酸性の物質であるため過剰に増えると血液が酸性に傾き、ケトアシドーシスという状態になります。
このとき、体は正常な状態に戻そうと、過剰なケトン体は尿から排出されます。
更に体内では、pHが酸性やアルカリ性に偏りすぎないようにする緩衝システムが働くため、このアシドーシスの状態を抑えようとしてくれます。
この緩衝システムには「呼吸」と「腎臓」が関わり、アシドーシスでは酸(H⁺)を排出することでバランスを保とうとします。
緩衝システムについてはこちらの記事でも解説しています。→pHバランスと呼吸の関係
緩衝システムの反応式は次のように表されます。
H⁺+HCO₃−↔H₂CO₃↔CO₂+H₂O
血液が酸性に傾くと、反応式の平衡が傾きH⁺を排出する方向に進み、呼吸でCO₂を、腎臓でH⁺(アンモニアと結合)を排出し、pHを元に戻そうとするのが基本的な働きです。
ケトアシドーシスの場合にも緩衝システムが働き、CO₂をできるだけ外に出すために、速く深い呼吸であるクスマウル呼吸が現れます。
しかし、ケトン体が過剰に増加するとこのシステムが追いつかなくなってしまいます。
血液が酸性に傾くと、酵素の機能低下、酸素供給の減少、神経伝達の異常が起こり、これが意識障害につながり、昏睡に至ることもあります。
そのため、ここまで重篤な状態にならないよう、インスリン注射や内服などの治療や食事療法などを含め糖尿病とうまくお付き合いをし、血糖コントロールをしていくことが大切となります。
まとめ
糖尿病ケトアシドーシスは、糖尿病のコントロールが悪化した状態で、インスリン不足により脂肪が代わりのエネルギー源として分解され、ケトン体が過剰になり血液が酸性に傾くことで起こります。
看護師としては、血糖管理の徹底や早期兆候の観察が重要です。
とはいえ、糖尿病は自己管理ができるようにしていくことが大切なので、病気だけでなくその人を総合的に把握してケアに繋げていかなくてはなりません。
これは看護師の得意分野であり、看護の面白みでもあります。
今後は糖尿病に関して扱う物品に関する特許も含めて知識を広げていこうと思います。
さて、最後に最近の自分のことですが‥
先週から周りで風邪がはやり、子どもも親も不調で実家での介護看護を手伝い、自分も週末に高熱でダウンしました。やっと治ってきたと思ったら、全国的に寒く乾燥してきて感染症の時期におびえています。
講座の学習もこんなペースで進めてきて、お恥ずかしながら何とか勉強を進めてきただけで受講開始から2年近くなっています。振り返りながら現状→今後を見直しつつ、進捗状況の報告をしなくてはと思っています。
参照
池田和正.図解生化学.オーム社,2006
岡庭豊.病気がみえる 糖尿病・代謝・内分泌 第5版.メディックメディア,2019.
アルバーツ, B., ブレイ, D., ルイス, J., ラフ, M., ロバーツ, K., & ウォルター, P.Essential 細胞生物学 原書第4版. 中村 桂子・松原謙一 訳. 南江堂, 2016.
日本糖尿病学会.糖尿病治療の手引き2023.南江堂,2023
Wikipedia 細胞呼吸:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E8%83%9E%E5%91%BC%E5%90%B8
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