今年は暖かい日が続いていましたが、ようやく冬らしい季節になってきました。
寒さと乾燥が本格的になると気をつけたいのが感染症です。
先日、感染についての外部研修に参加した際、
「ハイター液に手を入れてしまうと消毒効果がなくなります。」
という話を聞いて、職場の消毒方法に問題があることに気がつきました。
今の職場では、希釈したハイター液をバケツに溜めて物品を消毒しているのですが、その際に手が液に触れてしまうことがあります。
「消毒方法を見直さなければ」と思いましたが、単に正しいとされる方法を実行するだけでは不十分です。
その根拠をしっかり理解し、現場に適した方法にへと工夫することが大切です。
というわけで、「感染」というテーマは少し今更感もあるかもしれませんが、まずは感染症対策の基本知識を整理していきたいと思います。
アフターコロナの医療現場
感染症といえば、一時期は新型コロナウイルス感染症が大きく騒がれていましたが、今では世間の感染対策ブームはすっかり過ぎ去ったように感じられるかもしれません。
しかし、医療の現場ではコロナに限らず感染と向き合う日々が続いています。
コロナ対策もまた、形を変えながら続けられているのが現状です。
5類に移行し対応が各医療機関に委ねられるようになってから、入退院時の抗原検査や面会制限などの判断がより難しくなっているように感じます。
もちろん新型コロナだけでなくその他にも警戒すべき感染症がたくさんあるため、施設や訪問看護ステーションにおいても「感染委員会」を設置して感染対策をとることが運営基準で定められています。
感染・感染症とは
感染とは、「病原体が宿主に侵入、定着し、増殖すること」
感染症とは、「感染が成立し、発症したときに主に炎症所見(発熱や痛みなど)がある状態」
を指します。
私たちの周囲の環境や人体には数え切れないほどの微生物が存在していますが、健康な体では自然免疫がバリアの機能を果たし体を守っています。
体のバリア機能である免疫防御能が、病原体(主に微生物)の攻撃に負けたとき、感染が成立します。
感染の成立の条件は、以下の3つです。
1.感染源:病原体が存在する場所(例:体液、汚染された物品)
2.感染経路:病原体が人に移る道筋(例:接触、飛沫、空気感染)
3.感受性のある人:病原体に対して免疫が十分ではない人(例:抵抗力が弱い人、はしかなど特定の疾患の免疫がない人)
病院では、1と3をコントロールするのは困難です。病気の人が集まっているので感染源だらけですし、そもそも弱まっている患者さんの免疫力をあげるのも難しい話です。
そのため医療現場では、感染経路を遮断することが感染対策の基本とされています。
感染経路
分類
感染経路を遮断するためには、まずどのような感染経路があるのかを知る必要があります。
感染経路は感染源によって分類されており、外因性感染、内因性感染があります。
外因性感染
外因性感染は、外部に感染源が存在する場合に起こります。外因性感染は2つに分類されます。
- 水平感染
- 病原体が人から人、または物を介して広がる感染経路を指します。感染が水平に、横に広がっていくイメージです。
- 水平感染はさらに次の種類に分けられます
- 飛沫感染:咳やくしゃみなどで飛び散る飛沫を吸い込むことで感染。飛沫の飛ぶ距離は1~2m。(例:インフルエンザ)
- 空気感染:空気中に漂う微細な粒子(飛沫核)を吸い込むことで感染。飛沫核とは飛沫の水分が蒸発したもので、飛ぶ距離は数十m。(例:結核、麻疹)
- 接触感染:直接的な接触で感染。(例:ノロウイルス)
- 媒介物感染:汚染した物を介して感染。(例:食中毒)
- 母子感染(垂直感染)
- 妊娠中や分娩時に、母親から胎児へ病原体が移る感染経路です。感染の広がりが上下方向なので垂直感染ともいいます。
画像引用元:花王 感染経路
内因性感染
内因性感染は、体内の常在菌が感染源となる場合に起こります。
例えば、免疫力が低下した際の肺炎や尿路感染です。
医療現場において
看護師が対策をとることができるのは、主に外因性感染の水平感染に対してです。
この中でも、「医療従事者がいかに病原体を運ばないようにするか」が感染対策の大切なポイントです。
また、病院内では、患者が入院時の原疾患とは別に新たに感染症にかかることを医療関連感染と呼びます。この中には、院内感染も含まれます。
コロナ禍実際にあったケースとして、コロナ以外の疾患で入院した患者が新型コロナウイルスに感染し、入院が長引いたり、そのまま亡くなったこともありました。
主に医療従事者を介して広まる医療関連感染を防ぐことが、医療従事者にとって最重要課題です。
標準予防策
では、医療者が病原体を運ばないようにするためには具体的に何をすればいいのでしょうか。
その答えは、標準予防策(スタンダードプリコーション)を徹底することに尽きます。
標準予防策とは、「誰もが何かしらの感染症を持っている可能性がある」と考えて、全ての患者・職員に対し「感染の可能性のあるもの」への接触を最小限にする、という考えに基づく感染予防対策です。
感染の可能性のあるものは、汗以外の体液、傷のある皮膚、粘膜、嘔吐物が含まれます。
私が看護師資格を取った10数年前にはすで学校で教わっていましいたが、講師の方によると、この考え方が浸透してきたのはわりと最近とのことでした。
感染症には症状が現れるまで潜伏期間があることや、発熱直後の抗原検査では陰性と出る場合が多いこと、さらに、かつて新型コロナウイルスのように未知の病原体を持っている可能性もあります。
そのため「とりあえずみんな感染しているとみなして気をつけましょう。」という考えです。
標準予防策には具体的には以下のような実践が含まれます。
- 手指衛生(手洗い、アルコール消毒)
- 個人防護具の使用(手袋、マスク、ガウンなど)
- 器具や環境の消毒
この標準予防策は、ナイチンゲールの時代から変わらない「清潔の重要性」を基に、科学的根拠を加えた感染対策の基本です。
手洗いや清掃といった基本的な行動により、目に見えない病原体を拡散させないことが大切ということが100年以上前から言われているのです。
その中で、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒も、環境の清潔を保つための重要な対策の1つです。
次回、正しく使用して消毒効果を得るために、次亜塩素酸ナトリウムについて詳しく見ていきます。
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