エレキソルトでおいしく減塩

先日新聞でエレキソルトという商品を知りました。

エレキソルトとは、電気の力で塩味やうま味を強く感じるという、減塩生活をサポートするために開発されたスプーンです。

味が変わるなんて、ドラえもんの世界の話が現実になっているのか!?と驚きました。

食生活を変えれない父へのプレゼントに買おうと思いましたが、販売中止状態。

しかも予約抽選販売とのことでますます欲しくなり、とりあえずこのスプーンについて調べてみました。

この記事では、エレキソルトの仕組みを探るべく、その背景にある味覚の正体、ナトリウムの性質や体内での役割、減塩の必要性についても詳しく解説していきます。

塩味の正体

味覚とは

味覚は、特定の化学物質が舌の味蕾という部分を刺激することによって感じられます。

引用:https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%91%B3%E8%95%BE

味蕾には、甘味酸味塩味苦味うま味を感じる受容体があります。

これらの受容体は、イオンや分子が受容体に結合することで、味覚信号を脳に送り、味を感じるのです。

塩味は主にナトリウムイオンによって引き起こされます。

ちなみに、

酸味は水素イオン

甘味はグルコース・アルコールなど

苦味は窒素を含む有機物など

うま味はLーグルタミン酸、 

によるものです。

ナトリウムイオンとは

『塩味の正体はナトリウムイオン』ということですが、私たちが日常的に摂取している塩はナトリウムイオンとして存在しているのでしょうか?

食塩は、実際には約99%が塩化ナトリウム(NaCl)で構成されており、塩化ナトリウムはナトリウムと塩素のイオンからなる化合物です。

体内に摂取された塩化ナトリウムは、消化過程や体液中で、Na⁺(ナトリウムイオン)とCl⁻(塩化物イオン)に分離します。

ナトリウムは体内ではほぼ陽イオンであるナトリウムイオンとして存在しています。

それはなぜか?

それは、ナトリウムが、最外殻に電子を1つしか持っていないからです。

物質はなるべく安定した状態になろうとする性質があり、この「安定」とは、多くの場合、最外殻の電子が完全に埋まっている状態を指します。

引用:イオンと原子の違いは

実際は電子は惑星の軌道のように外側を回っているわけではないのですが、イメージとしては上のイラストのような感じです。

ナトリウムは安定した状態になるために最外殻の1つの電子を失って、ナトリウムイオン(Na⁺)として存在することが一般的なのです。

エレキソルトの仕組み

引用:https://electricsalt.shop.kirin.co.jp/electricsalt-spoon/product/ES-S001/

普通のスプーンと見た目はほとんど変わりないエレキソルト。

その塩味が増すメカニズムを順に説明していきます。

まず塩を口にいれると、唾液によってNa⁺とCl⁻に分離し、水分子に囲まれます。

下のイラストのイメージのように、水分子に囲まれた状態を水和といい、水和されたNa⁺とCl⁻が水の中に均一に広がることを拡散といいます。

引用:http://sekatsu-kagaku.sub.jp/solution-chemistry1.htm

この口の中の唾液にNa⁺とCl⁻が拡散したところにスプーンの電気が働きます。

エレキソルトはまずマイナスに帯電するので、口腔内に入れると、口の中のプラスのイオンであるNa⁺を引き寄せて集めます。

その後、スプーンはプラスに帯電し、引き寄せたNa⁺を放出します。

通常はNa⁺がバラバラに舌に乗るはずのところを、この過程により、スプーンに集められたNa⁺がまとまって味蕾を刺激します。

引用:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/102601146/

電気の力でNa⁺を集めて放つことで一度に集中して味蕾を刺激することができ、塩味がより強く感じられるという仕組みなのです。

ということは、他の味覚も、イオンが関わるものは味が増強しそうですね。

引用:https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2022/0907_01.html

電気といっても微弱な電流なのでビリビリはせず人体に影響はないようですが、ペースメーカーなど医療機器を使用されている方は使用できないと書かれています。

減塩の必要性

この商品はつらい減塩生活をサポートする目的で開発されたそうです。

でも、そもそも塩分の取り過ぎが良くないと言われているのはなぜなのでしょうか?

それを理解するためには、ナトリウムイオンについてもう少し詳しく知る必要があります。

体内でのナトリウムイオン(Na⁺)の働きの一つは、体液の浸透圧を調整することです。

「浸透圧の調整」とはどういうことか?

まずは浸透圧について説明していきます。

浸透圧とは

浸透圧に関してはこちらの記事でも触れています。→注射用水から見る浸透圧

Wikipediaで調べると、「半透膜を挟んで液面の高さが同じ、溶媒のみの純溶媒と溶液がある時、純溶媒から溶液へ溶媒が浸透するが、溶液側に圧を加えると浸透が阻止される、この圧を溶液の浸透圧という。」とあります。

こう聞くと何かよく分かりませんよね。

例えば、水を入れた容器を半透膜で仕切って、その片方だけに塩を溶かすとします。

半透膜とは、水分子は通過できるが、特定の分子やイオンは通さないという仕組みになっています。

Na⁺とCl⁻が半透膜に阻まれて拡散できないとすると、2つの液の濃度を均一にするためには、水分子が移動するしかありません。

結果として、塩水の方に純粋な水の方から水分子が移動してかさが増える現象が起きます。

このとき、水の移動を抑えるために塩水側の水面にかける圧力が浸透圧です。

浸透圧は、水分子が半透膜を通じてその濃度を均一にしようとする力とも言えます。

体内での浸透圧の働き

この浸透圧は私たちの体の機能に重要な役割を果たしています。

水は私たちの体の約60%を構成しており、生命維持に必要な最も重要な物質の一つです。

人の体の細胞膜血管壁は半透膜でできているため、体のいたるところで浸透圧により体内の水分がどこに分布するかが調整されています。

浸透圧が高い場所にはより多くの水が集まり、浸透圧が低い場所からは水が取られていくのです。

ナトリウムイオンは細胞外液の主要な陽イオンとして体液の浸透圧を調整しています。

この浸透圧に関わるのはナトリウムイオンだけでなく、他のイオンとのバランスが保たれることで体液の分布のバランスが維持されています。

適切なナトリウム摂取量

成人の1日の塩の摂取量の目標は5g未満とされています。

1杯のラーメンスープを飲み干すと塩分は約5g。

それだけで1日の目標量になってしまうとはおそろしい‥。

こう考えると普通の食事をしていればナトリウムが不足することはなく、むしろ日本食は塩分が多く含まれているため、塩分の取り過ぎに気をつける必要があるということがわかります。

しかし夏になると、「熱中症予防に塩分を取りましょう」とよく聞きますよね。

これは熱中症など多量の発汗や激しい下痢では汗とともにナトリウム出てしまうため、体内のナトリウムが欠乏するからです。

また、胃ろうなどからの経腸栄養剤はナトリウム含量が低いため、長期にわたり経管栄養をしている方には、塩化ナトリウムがわざわざ薬として処方されているケースが多くあります。

人体にとって欠かせないナトリウムですが、その量は多くても少なくてもいけないのです。

過剰摂取による体への影響

ナトリウムの過剰摂取は、生活習慣病などをはじめとする様々な疾患の原因となります。

その中でも高血圧腎臓病のために減塩をしている人が多いのではないでしょうか。

以下に、ナトリウムの過剰摂取がどのように高血圧腎臓病に影響するかを説明します。

たくさん塩を摂取すると、血液中のNa⁺の濃度が高くなり、体液の浸透圧バランスが崩れます。

Na⁺が濃くなっている血液の方に水が引っ張られ、血液量が増加します。

具体的には、体の細胞内外の水分バランスを維持するために、水分が細胞内から血液に移動します。

浸透圧の原理を理解していれば、この現象がわかりますね。

血圧とは心臓が血液を送り出す際に血管の壁にかかる圧力のことを指すため、送り出す血液が増えれば圧力が大きくなる、つまり、血圧の上昇につながるということです。

引用:https://www.morishita.or.jp/department/hemodialysis/salt/

とはいえ、多少塩を取り過ぎたとしても、私たちの体には過剰なナトリウムを排出する機能が備わっています。

その役割を担っているのが腎臓です。

腎臓の主な機能の一つは、体液のバランスを維持するために、下のイラストのように血液から不要な物質や余分な水分を除去し、必要な物質を再吸収することです。

引用:https://www.ikyo.jp/commu/okusuri/okusuri01

塩を多くとって血中のNa⁺が濃くなると、濃度調整のためナトリウムを排泄しようと腎臓はたくさん働かなくてはなりません。

そのため過剰なナトリウム摂取が続くと、腎臓に負担がかかり腎臓病などのリスクが上がります

さらに、腎臓の機能が低下すると、Na⁺を排出できず血液中のNa⁺濃度が高い状態が続き、結果的に血圧の上昇も引き起こしてしまいます。

このような疾患の悪化を防ぐために減塩が必要とされているのです。

また、日本食は塩分が多めなので、こういった病気の予防のためにも日常的に減塩が推奨されているのですね。

関連特許

エレキソルトは、キリンホールディングスと明治大学との共同開発による製品のようです。

このスプーンに関する特許を調べてみると、明治大学が出願した電子味覚に関する特許がありました。

特開2021-045399 電気味覚提示装置、電気味覚提示システム、および電気味覚提示方法

この装置とエレキスプーンは、電気刺激を利用して味覚を変えるという基本的なアイディアは共通していますが、こちらの特許はスプーンではなく手袋に電極が組み込まれており、食品に触れることで電気信号を伝えるというデバイスです。

食品メーカーだと、よりおいしい減塩商品の開発、となりそうなものですが、食品そのものではなく電気の力で減塩につなげる、いう発想がすばらしいですよね。

ちなみに、ドラえもんの道具にも『グルメフォークセット』というひみつ道具があります。

フォークによって食べ物がリンゴ味やステーキ味に変化するので、のび太の嫌いなピーマンも楽勝!という道具です。

発明って、漫画の世界の中の「あったらいいな」というアイディアから生まれるのかもしれません。

まとめ

ドラえもんの道具のようなエレキソルトには、電気化学的な技術が詰まっていることがわかりました。

スプーンを変えるだけなので続けやすく、減塩の助けとして父や利用者さんにも勧めていきたいです。

とはいえ使ってみないことにはわからないので、買って試したらまた報告します。

今後もこのような新しい技術に注目していきたいと思います。

参照

キリンホールディングス:https://www.kirinholdings.com/jp

エレキソルト公式サイト:https://electricsalt.kirin.co.jp

厚生労働省 ミネラル:https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586565.pdf?_ga=2.265286031.1810224429.1694209059-1779657036.1694209058

生活と化学:http://sekatsu-kagaku.sub.jp/solution-chemistry1.htm

Arthur C. Guyton, John E. Hall著、御手洗玄洋訳、ガイトン生理学 (第11版)、
エルゼビア・ジャパン株式会社、2010


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