福祉用具の制度と市場動向

福祉用具とは、介護を受ける人の生活を助けるだけでなく、介護をする人の負担も軽くしてくれる、生活をサポートする道具のことです。

車いすやベッド、手すりといった身近なものから、新しい機能を持ったものまでさまざまな種類があります。

最近のニュースでは、通信機能付きの用具が介護保険の給付対象に加わることや、レンタルと購入の選択制が今後さらに広がる見込みであることが報じられました。

一見専門的で難しそうに思えますが、「どんなものを選べばいいのか?」「レンタルと購入ってどう違うの?」「できるだけ安く利用するには?」といった疑問は、身近な人に介護が必要になったときに誰にでも関わってくる身近な話です。

これまでの記事では福祉用具などの仕組みを解説してきましたが、今回は「福祉用具が必要になった時どうすればいいのか」という視点を含めて、制度や現場での体験についてお話していきたいと思います。

福祉用具が必要になったらどうする?

福祉用具の貸与・販売サービスは、介護保険制度の居宅サービスのひとつとして位置付けられています。

ただし、福祉用具の利用=介護保険の利用というわけではありません。

介護が必要になるきっかけには大きく2つのパターンがあります。

  • 突然の病気やケガで、生活を大きく変えざるを得なくなる場合
  • 加齢などにより徐々に日常生活が不自由になっていく場合

前者は、入院している病院などで生活の再構築や施設の入所のために、早期に介護保険を申請し、サービス利用へとつながりやすい傾向があります。

一方後者では、しばらくは自分や家族で工夫し、手軽な福祉用具を自費で購入して対応することが多いのが実情です。

サービス利用に至る前

入浴用の椅子、食事用の自助具、室内用の小さな手すり、杖などは、数千円〜数万円で手に入り、自分で買ってみて使い始める方がほとんどです。

ホームセンターなどでも取り扱いがあり、利用者のお子さんがネットで探して買うというパターンもよくあります。

「とりあえず少しでも安全に今の暮らしを続けたい」という思いから、介護保険を申請する前に自己判断で試している方も少なくありません。

本格的に介護が必要になった場合

介護ベッドや車いす、歩行器など高額で専門的な用具が必要になると、介護保険の利用が現実的な選択肢になります。

流れとしては:

  1. 市町村に申請をして、要介護認定を受ける
  2. ケアマネジャーがケアプランを作成し、福祉用具の導入も含めて全体を管理する
  3. ケアマネの依頼を受けた福祉用具専門相談員が、利用者の状態に応じて適切な用具を提示する
  4. 福祉用具専門相談員によって福祉用具計画書が作成され、定期的にモニタリングを行い、必要に応じて変更していく

提案にあたっては、医師や看護師、リハビリスタッフなどの専門職と連携して進めることが基本ですが、利用者の安全確保に直結する場合には、すぐに導入されることもあります。

導入される福祉用具の費用は、原則として介護保険の支給限度額の範囲内で調整されます。

ケアマネジャーが利用者と家族のために、全体のサービス(デイサービスや訪問系のサービスなど)と合わせてバランスを取り管理する仕組みです。

介護保険の利用でどれだけ安くなるのか?

介護保険を利用すると、福祉用具のレンタルや購入にかかる費用を抑えることができます。

ただし、介護度によって利用できる用具に制限があることや、レンタルと購入の対象が分かれていることを理解しておく必要があります。

レンタル(福祉用具貸与)

  • 介護保険の支給限度額(要介護度に応じて月5万〜36万円ほど)の範囲内であれば、自己負担はその1〜3割のみとなります。

  • 状態が変われば別の用具に切り替えられるメリットがあります。

  • ただし、介護度が軽い場合にはレンタルできない用具があります
    • 要支援や要介護1では、次の用具は原則給付対象外:車いすとその付属品、介護ベッドとその付属品、床ずれ防止用具、体位変換器、認知症老人徘徊感知器、移動用リフト
    • 自動排泄処理装置も、要介護1〜3では対象外(要介護4・5でのみ利用可)

購入(特定福祉用具販売)

  • 他人が使ったものを再利用できない、もしくは心理的に抵抗があるものは購入対象となります。
    • 例:ポータブルトイレ入浴用いす浴槽用手すり簡易浴槽移動用リフトの一部など。

  • 年間10万円までが給付対象で、そのうち自己負担は1〜3割のみとなります。
    • 例:5万円のポータブルトイレを購入 → 1割負担なら自己負担は5000円。

住宅改修

福祉用具の貸与や購入とは別に、自宅を改修するための給付もあります。

  • 例えば、手すりの取り付け段差解消床材の変更引き戸への変更などです。

  • ひと月の限度額とは別で、給付限度額は生涯で20万円までです。

  • ただし、介護度が3段階以上悪化した場合(例:要介護1 → 要介護4)には、再度20万円の枠が新しく設定されます

ちなみに、手すりには壁に取り付けるものだけでなく「置き型のレンタル品」も豊富にあります。

状態の変化に合わせて取り替えられるため、あえて住宅改修ではなくレンタルを選ぶケースも少なくありません。

給付対象外の製品

ここまで紹介したレンタルや購入の仕組みは、あくまで介護保険の対象となる福祉用具に限られます

在宅療養に必要なものの中には、介護保険の給付対象外となる製品も存在します

代表的なものとしては:

  • 吸引器(痰の吸引などに使用)
  • パルスオキシメーター(血中酸素濃度を測定)
  • ネブライザー(吸入器)
  • 配管式酸素濃縮装置(在宅酸素療法に使用)
  • 普通の家具や家電製品(ベッドや椅子でも「介護専用」と認められないもの)

などが挙げられます。

これらは医療機器や一般生活用品に分類されるため、介護保険の枠では給付対象になりません。

この中で、福祉用具の事業所で取り扱いがあり、自費でレンタルも購入も可能なものもありますが、その際には注意が必要です。

これは私自身の体験ですが、在宅介護の現場で吸引器を導入したときに、給付対象外であることをよく理解していませんでした。

いきなり購入は高いため、「とりあえずレンタルで様子を見よう」と考えて借りたのですが、結果的にほとんど使わずに借り続けてしまい、実費で高額なレンタル料を払うことになってしまったのです。

後になって知ったのは、自治体や本人の状態によっては助成制度があり、最初から購入していれば費用を大幅に抑えられたということでした。

担当ケアマネさんがもっと気にしてくだされば、とも思いましたが、自分が仕組みを知らないと損をすることがあるという学びになりました。

制度改定の動き

通信機能付き用具が給付対象に

内容
これまで介護保険で給付対象となる通信機器は、「認知症老人徘徊感知機器」のように、本来の機能として通信を伴うものに限られていました

しかしGPSでの位置情報通知や機器の異常故障の通知といった通信機能付きの車椅子や歩行器も給付対象に含まれることが大筋で承認されました。

つまり、今まではGPSのような通信機器そのものだけが介護保険での給付対象だったのが、GPS付きの車椅子などもその対象になる、ということです。

ただし、バイタルサインを検知する機器などは対象外となっています。

(2025年7月10日のシルバー産業新聞より)

考えたこと
私自身、在宅介護の現場で「こういう機能があれば助かるのに」と思うことが多く、制度がようやく追いついてきたと感じています。

特に認知症の増加に伴い徘徊の問題は深刻化しており、車いすや歩行器など日常的に使う移動用具に通信機能が付いているほうが、より効果的に活用できると思います。

一方で、年末の展示会で開発・普及が進んでいると感じたバイタルサインを検知する見守り機器(マットレス型やミリ波を利用する機器など)は対象外とのことです。

この技術は現場のマンパワー不足を補うことができ、私自身も大きな期待をしています。

現在は施設向けに自治体の補助金を活用して導入が進められていますが、もし個人が介護保険を通じて利用できるようになれば、市場はさらに広がるでしょう。

しかし、介護保険制度の財源不足がますます深刻化している現状を考えると、個人への給付にまで広げるのは難しいのではないかとも感じています。

レンタルと購入の選択制が拡大へ

内容
これまで福祉用具はレンタルが基本で、ポータブルトイレなど再利用できないもののみ購入対象でしたが、2024年の介護保険改定にて、福祉用具貸与・販売の選択制の導入が始まりました

この改訂により、一部品目(スロープ・歩行器・杖)で、利用者が「借りるか買うか」を選べるようになっています。

そして、次期改訂では、このレンタルか購入かの選択制がの品目が、更に拡大していく可能性があると報じられました。

(2025年8月10日のシルバー産業新聞より)

考えたこと
基本的に介護度は増えていくものなので、利用者の状態の変化に応じて用具を変えることができるレンタルの方が適している場面が多いと感じます。

しかし一方で、比較的安く介護度の変化に左右されず長期に使用できるものについては、購入の方が経済的だといえます。

さらに、購入という仕組みは福祉用具市場の拡大につながるとも思います。

実際、私が以前カタログに載っていた車いすを提案した際、事業所からは「レンタルでの取り扱いがないので似たものを」と言われ、他の製品に変更せざるを得なかったことがありました。

制度上は貸与対象でも、おそらく実際には事業所の在庫管理の事情で制約があるのだと思います。

これが購入となれば、メーカーから仕入れて導入することができたのではないでしょうか。

福祉用具はどんどん使いやすく改良されているため、購入であれば必ず最新の機種を選ぶことができ、結果として市場の成長につながりそうです。

また、その背景には、買った方が安いなら長期レンタルを続けるよりも保険給付を抑えられるという、介護保険の財源問題も関わっているのではないかと考えています。

これからの展望とまとめ

最近の傾向として、以前は「専門家におまかせ」という方が多かったのに対し、今はご自身がネットで情報を集め、「この製品はどうなのか?」「こんな事が書いてあったけど本当か?」などと相談されることが増えてきました。

また同じ製品でも「ネットで安いところがあるからそこで買う」という声もよく聞きます。

だからこそ、私たち専門職はネット検索だけでは得られないプラスアルファの情報やアドバイスができなくてはいけないと、日々感じています

これまで見てきたように、福祉用具導入は単なる道具選びではなく、制度の仕組みや財源、そして利用者・家族の生活そのものに深く関わっています。

最近の制度改定では新しい動きがあり、今後は介護の手間を軽減するためにテクノロジーの導入がさらに進んでいくという良い面があります。

しかし一方で、少子高齢化で介護保険の財源が限られる中、現在の自己負担割合のままで同じサービスを維持するのは難しくなるのではなるのは確実だと思います。

だからこそ、制度そのものを持続可能にする仕組み作りが必要です。

主に保険料や自己負担金を引き上げが議論されているようですが、実際にはお金の使い方をどう工夫するかという視点が必要だと思います。

例えば、高額であっても見守りセンサーなどのように、マンパワー不足を補えるテクノロジーに投資すれば、巡視や介助にかかる他のサービスの費用を抑えられ、現場の負担を減らしながら限られた財源を使えます。

また、ケアマネの業務をAIによって減らし、モニタリングをきちんと効率的に行える仕組みを整えることも有効ではないかと思います。

これにより、実際には使われていない福祉用具のレンタルや、同一事業所内での報酬目的の過剰サービスといった無駄な給付をチェックし抑止することができれば、財源の節約につながると考えます。

私は看護師として現場を知る立場から、制度や市場の動き実際の使用感特許明細書から読み取れる技術的な背景もふまえて、福祉用具に関する情報を発信しています。

現在は、市場展開の支援、現場からのフィードバック、個人的な介護に関するお悩みの相談なども行っております。

ご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

参照

シルバー産業新聞(2025年7月10日)
 「通信機器付き福祉用具、給付対象を拡大へ」

シルバー産業新聞(2025年8月10日)
 「福祉用具貸与・販売選択制導入の効果検証」

厚生労働省 どんなサービスがあるの? – 福祉用具貸与 https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group21.html

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