介護や看護の現場で欠かせないケアのひとつ「体位交換」とは、自力で寝返りができない方の褥瘡(床ずれ)を防ぐために、定期的に体勢を変えるケアです。
文献では「体位変換」とも書かれますが、現場では「体位交換」という言葉の方が馴染みがあり、実際には略して「体交(たいこう)」と呼ばれています。
一見すると体の向きを変えるだけの簡単なケアのように思われますが、実際には奥が深いケアだと最近感じています。
今回も、前回の記事(30度側臥位のリスクと『バナナフィット・スモールフロータイプ』)に引き続き、体位交換における問題点に着目し、『床ずれナース・体位変換補助パッド』という製品をご紹介します。
この記事では、こちらの製品が解決する体交における悩み、製品の特徴、関連製品の特許についても解説していきます。
本記事の英語版はこちら→Convenient for Repositioning: Bedsore Nurse Pad Review
なお、本記事は筆者個人の見解・調査に基づいた内容です。
内容の正確性を保証するものではなく、紹介する製品の購入・使用は必ずご自身の判断と責任で行ってください。
また、記事中の製品リンクにはアフィリエイトを含む場合があります(PR)。
体位交換の現場の工夫と課題
前回の記事でも触れましたが、現場では体位交換をしやすくするために、バスタオルを体幹部に敷き込む方法がよく用いられます。
私自身も、以前の病院や現在の職場で日常的に行ってきた、現場でよくある介助方法です。
バスタオルを敷くことで、担架のようにして体の大きな利用者さんを持ち上げたり、一人介助の場面でもタオルの端を持ち手にして体を持ち上げ、下にクッションを差し込むことができます。
このようにとても便利な方法ですが、いくつかの問題点もあります。
- しわが寄りやすい
タオルのしわが肌に不快感を与えたり、しわによる局所的な強い圧迫が生じて褥瘡の原因になります。
- 湿気がこもりやすい
綿素材で吸水性はあるものの、汗を含むと蒸れてベタつきやすく、皮膚トラブルのリスクになります。
- 破れやすい
薄手のため、担架のように利用者を持ち上げるために使うと、ビリッと破れてしまうこともあります。
- 摩擦による皮膚ダメージ
ベッド上でタオルを引っ張ると、利用者の皮膚も一緒に引っ張ってしまうことがあります。
こうした点から、介助のしやすさを目的に敷いたバスタオルが、逆に褥瘡や皮膚トラブルの原因となってしまうのです。
このようなデメリットから、あまり推奨される方法ではありません。
現場でもその点は理解しているのですが、マンパワーが不足している状況では、「介助のしやすさ」 を優先してバスタオルを用いることが多いのが実情です。
床ずれナース・体位変換補助パッド
特徴
「床ずれナース」体位変換補助パッド は、現場で多く使われてきたバスタオルの代わりに使えるよう工夫された製品です。
旭化成の立体編地フュージョン®を採用しており、次のような特徴があります。
- 適度な厚みと弾性があり、持ちやすく体を支えやすい。
- 通気性が高く蒸れにくい。
- 弾性に富むため しわが寄りにくく、皮膚トラブルを防ぎやすい。
フュージョン®とは
フュージョン®は、旭化成が開発した立体編物です。
2枚の編地の間を弾力性のある連結糸でつなぐ構造を持ち、さらに筋交いのような要素が加わることで安定性を高めています。

編地の間には空間が確保されており、この独自の構造が次のような特長を生み出しています。
- 優れたクッション性
- 高い体圧分散性
- 抜群の通気性
- 形態安定性(型崩れしにくい)
- 洗えて清潔、乾きやすい
- 軽量性
- 他のクッション材との組み合わせが可能

画像下側の裏面がフュージョン®を採用したメッシュ面になっています。
使用感
この製品は職場ではなく、実家での介護に使っています。
介護する側と、自分が寝てみた両方の立場からの使用感をまとめました。
- 適度な弾力と快適な寝心地
適度なクッション性があり、体圧分散性を持ちます。分厚すぎないので、体幹部だけに敷いていても違和感がなく、快適な寝心地です。
- しわになりにくさ
しっかりした生地で作られており、動いてもしわが寄りにくいのが特徴です。
実際に寝返るの自分自身で一晩寝て試したところ、バスタオルでは朝にはぐしゃぐしゃになってほとんど敷かれていなかったのに対し、このパッドは少しずれる程度で済みました。
- 通気性と快適さ
寝たきりの利用者さんは、体がクッションに囲まれると熱がこもりやすく、特に夏場は背中に汗をかきやすいものです。
汗をかくなら綿素材のバスタオルの方が良いのでは、と思うかもしれません。
私もそう感じていましたが、タオルが洗濯後に乾きにくいことからもわかるように、綿は吸水性は高いものの乾きにくいという欠点があります。
その点、このパッドはポリエステル素材で、さらっとした肌触りとともに、乾きやすいため、汗によるべたつきが軽減されたように感じました。
- 介助のしやすさ
生地にしっかりした張りがあるため、一人で端を持って体を浮かせ、体位交換をする際にも扱いやすいと感じます。
また、耐久性があり、バスタオルのように破れる心配もなさそうです。

- 洗濯のしやすさ
排泄物などの汚れも落ちやすく、洗濯後はすぐ乾くので、清潔を保ちやすいです。
関連特許『袋状シーツの特許』
体位変換補助パッドそのものの特許の公開は見つかりませんでしたが、関連する特許として同じ会社の「袋状シーツ」に関する出願があります。
【公開番号】特開2009-201649(P2009-201649A)
【公開日】平成21年9月10日
【発明の名称】袋状シーツ及びこれを備えた敷寝具
【出願人】黒田株式会社、エフ・アイ・ティー・パシフィック株式会社
こちらは、内部にマットや布団を入れて使う袋状のシーツに関する特許です。
先に紹介した体位変換パッドと同じく、生地にはフュージョン®が採用されています。
これにより通気性や形態安定性といった素材のメリットを活かしつつ、シーツとしての使いやすさにも工夫が凝らされています。
従来の問題点
立体編地(フュージョン®)を敷布団やマットレスの上に敷くことで、優れた体圧分散効果と通気性が得られ、褥瘡予防を目的とした設計が工夫されています。
しかし、敷布団の上に敷くだけでは、立体編地と敷布団との間に位置のズレが生じやすいという問題がありました。
さらに、マットレスの端に座ると敷寝具が沈み込んで型崩れし、シーツがズレることがあります。
体圧分散効果を持つ敷寝具は柔らかいため、例えばエアマットのような柔らかく沈み易いマットの端に腰掛けて車椅子へ移乗しようとすると、マットの縁の沈み込みは大きくなります。
このとき、座位が不安定になり移乗がしにくいことが問題になりますが、この際の沈み込みによるシーツのズレも問題となります。
シーツの構造の工夫(解決策)
この特許の袋状シーツは、「上面」「下面」「側面」それぞれに異なる素材を使うことで、ずれにくい仕組みになっています。
- 上面部
利用者が直接触れる上面には、旭化成の立体編地フュージョン®が採用されています。
フュージョン®は弾性や形態安定性、通気性を持つため、シーツの素材として適しています。
快適な寝心地と、褥瘡予防の効果もある構造です。
- 側面部
シーツの上面と下面をつなぐ側面は、伸縮しない生地で作られています。
側面がしっかりと張ることでシーツ全体の形が保たれ、マットレスを安定して覆うことができます。
- 下面部
下面は伸縮性の高い生地で作られており、しかもサイズは上面より小さく設計されています。
伸ばした状態でちょうど上面と同じ大きさになるよう作られているため、下面に常に引っ張る力が働き、シーツ全体がピンと張った状態になります。
この構造によって、シーツがしわになりにくく、またマットレスとの間でずれにくい仕組みとなっています。
このようにシーツの各パーツの素材やサイズを工夫することで、シーツのずれの問題を改善しています。
こちらの特許の製品は確認できませんでしたが、同じ立体編地フュージョン®を使った床ずれナースシリーズには、体位変換補助パッドのほかにも、マットレス用の敷きパッドや車椅子用のクッションなど、様々なアイテムが展開されています。
ベッドパッド↓
この特許の工夫そのものはシーツを対象としたものですが、「ずれにくさ」「通気性」「体圧分散性」といった特徴は、他の関連製品にも応用されているようです。
おわりに
医療介護の現場では「本当はこうした方がいい」とわかっていても、人手や時間の制約から思うようにできないことがよくあります。
そうした課題を解決するのが、このような福祉用具です。
素材や構造の工夫によって、介助の負担を軽くし、利用者の快適さを保つことができれば、現場にとっても大きな助けとなります。
これからも国内外問わず、「理想と現実のギャップ」を埋める製品を取り入れて、いいケアに繋げていきたいと思います。
現在、このような看護師としての現場の視点と、特許への知見を活かした情報発信とともに、医療材料やケア用品の解説や技術記事の執筆、市場展開支援なども行っています。
ご関心のある方はブログ内フォームからご連絡ください。
※本記事の内容は参考情報であり、正確性を保証するものではありません。
製品の購入や使用はご自身の判断と責任でお願いいたします。
参照
旭化成 アドバンス https://www.asahi-kasei.co.jp/advance/jp/business/apparel_and_fiber/cubit.html
エフ・アイ・ティー・パシフィック株式会社 床ずれナースシリーズ カタログ ダウンロード https://r2d.fitpacific.com/catalog/index.html
特開2009-201649(P2009-201649A), 公開日:平成21年9月10日, 「袋状シーツ及びこれを備えた敷寝具」, 出願人:黒田株式会社、エフ・アイ・ティー・パシフィック株式会社.