30度側臥位のリスクと『バナナフィット・スモールフロータイプ』

医療・介護現場では、自力で動けない方の褥瘡(床ずれ)予防のため、「ポジショニング」がとても重要です。

ポジショニングとは、利用者さんや患者さんの体を適切な姿勢に保ち、圧迫やずれを減らして快適さを保つケアのことです

中でも現場でよく行われるのが「30度側臥位」という姿勢ですが、実はこの体位、正しく理解して使えている人は意外と少ないのです。

実は私自身も、なんとなくの知識でやっていたことがありました。

けれど、そのまま続けていると、思わぬリスクを招くことがあります。

この記事では、30度側臥位の意義や問題点、褥瘡について、体位交換に有効と思われる『バナナフィット スモールフロータイプ』というクッションについて、特許の内容ももとに解説していきます。

本記事の英語版はこちら→30° Lateral Position Risks & the Bananafit Small Flow Type Cushion

なお、本記事は筆者個人の見解・調査に基づいた内容です。
内容の正確性を保証するものではなく、紹介する製品の購入・使用は必ずご自身の判断と責任で行ってください。
また、記事中の製品リンクにはアフィリエイトを含む場合があります(PR)。

褥瘡と30度側臥位の基本

以前の記事で、褥瘡と圧力の関係について少し説明をしました。

詳しくはこちらをご覧ください→注射・点滴・褥瘡ケアに活かす「圧力」の話

褥瘡とは、一般的には「床ずれ」とも呼ばれ、長時間同じ姿勢で皮膚に圧力がかかり続けることで血流が阻害され、組織が壊死してしまう皮膚損傷です。

外部からの衝撃で皮膚が破れる通常の傷とは異なり、内側からの血流遮断が原因となるため、初めは見た目で気づきにくく、進行してから発見されることも少なくありません。

特に寝たきりで自分の体を動かせない方や、高齢で皮膚のバリア機能が低下している方、痩せて骨が出っぱっている方に多く見られます。

中でも仙骨部・踵・大転子部などの骨突出部は、マットレスと皮膚の間に強い圧がかかりやすく、褥瘡の好発部位です。

このため、同じ部位に長時間圧が集中しないよう、定期的な体位変換が褥瘡予防の基本となります。

その代表的な方法が「30度側臥位」です。

30度側臥位は、仰向けから体幹を約30度傾けた姿勢で、骨突出部を避けつつ臀部などの広い筋肉で体重を支えることができます。

画像引用元:https://item.rakuten.co.jp/benkei-wakaba/w641007-400/

さらにクッションなどで適切に支えることで、接触面積を広げ、圧を効果的に分散できます。

このように骨突出部への直接的な圧迫を避け、広い面で体を支える30度側臥位は、褥瘡予防の一助となるとされ、医療・介護の現場で広く行われています。

30度側臥位の現状と問題点

現場の実際

寝たきりで褥瘡発生リスクが高い利用者さんの場合、在宅では家族が定期的に体位交換を行うのは難しいため、体位交換機能付きマットレスを導入することがほとんどです。

病院や施設の場合は、看護師などのケアスタッフが定時で体位交換を行います。

私が訪問している施設では、体位交換用に安い中綿の大きめの枕を各利用者さんに用意してもらっています。

なるべく費用を抑えるため、施設にあるものも活用しつつ、30度側臥位を基本とした体位交換を行っています。

この枕は初期費用が安く、体位交換用クッションとしては使い勝手が良い面もありますが、専用品ではないため次のような問題が出ます。

  • 差し込み方によって角度が毎回変わる
  • 使用するうちに綿がへたって支えにならない
  • フィット感が悪く滑って仰臥位に戻ってしまう

さらに、体格や拘縮の程度は人によって異なるため、適切な除圧体位が作れない場合もあります。

そのような時によく使うのが、差し込むだけで適切な角度を作れる「三角枕」です。

このようなクッションは現場では『体交枕』と呼ばれ、この三角枕に以外にも、メーカーやサイズ、形のバリエーションも豊富です。

介護保険でレンタルできるものも多く、使い勝手や利用者の状態に応じて試してから導入します。

褥瘡の”ポケット”のリスク

30度側臥位には、骨突出部を浮かせて除圧できるメリットがある一方で、きちんとポジショニングをしないと、逆に褥瘡の深刻な状態に繋がる場合があります。

この体位では、利用者さんの体が30°の斜面に置かれている状態になり、その体重は、

①斜面に対して垂直にかかる力

②斜面に平行で滑り落ちるように働く力

とに分解されます。

このことから、仰臥位(仰向け)で体重がそのまま垂直にマットレスにかかっている場合と比べると、の力は小さくなり、その分皮膚にかかる圧力が減ることがわかります。

ここまで聞くと、「やはり褥瘡予防に良さそう」と思われるかもしれません。

では、の力が働くと何が起こるのかを考えてみましょう。

もし斜面が滑り台のようにつるつるであれば、の力によって体は滑り落ちてしまいます。

しかし実際には、体とクッションとの接触面に摩擦力が働くため、30度程度の角度であれば体は滑らず、その姿勢を保つことができます。

このとき実は、摩擦力によって体は接触面上にとどまって見えても、体内の骨格はの力によって滑り落ちようとします

その結果、イラストの赤の矢印のような、皮膚と骨の間で組織を横にずらす力が生じます。

これは「せん断力」と呼ばれ、皮膚のつっぱり感や不快感の原因となります。

実際にマットレスに横向きで寝てみると、マットレスと強く接している脇腹付近が特につっぱる感じがするはずです。

通常は、自分で体を少し浮かせてこのずれを解消できますが、体を動かせない方では、せん断力が加わったままとなります。

このせん断力は、不快感を生むだけでなく、褥瘡のリスク要因の一つとされています

30度側臥位では、骨盤周辺の皮膚がずれた状態で引っ張られ、大転子部(太ももの側面の付け根の骨の出っ張った部分)に圧力が集中しやすくなります。

この状態で発生した褥瘡は、表面上は小さく見えても内部で深く進行している場合があります。

この現象のメカニズムは以下の通りです。

皮膚がずれた状態で圧迫されてできた褥瘡は、皮膚を引っ張る力を解放して元の位置に戻すと、表面上は骨突出部とずれた位置にできているように見えます。

しかし内部では、褥瘡が骨突出部に向かって斜めに形成され、袋状の壊死であるポケットが深く進行してしまうのです。

このような、せん断力による皮膚の損傷を防ぐためには、皮膚のずれや骨格が滑り落ちようとする力をしっかり受け止める支持面をつくり、正しいポジショニングを行う必要があります。

そのため、例えばしっかりしたクッションや丸めたタオルで支える方法があります。

しかし、30度側臥位に関する知識不足や人手不足もあり、ここまで配慮したポジショニングは中々できていないのが現状です。

バナナフィット スモールフロータイプ

ここまでご説明した30度側臥位に潜むリスクを解消し、効果的な体位交換につながる可能性がある製品があります。

それは、パラマウントベッド株式会社『バナナフィット スモールフロータイプ』というクッションで、私自身も現場で試してみたいと思っているものです。


介護 ポジショニングクッション バナナフィット スモールフロータイプ パラマウントベッド 介護用クッション 体位変換クッション

画像引用元:https://www.paramount.co.jp/series/3/3000337

このクッションには、クッション本体の構造引き抜きやすい工夫という、2つの特許が存在しているようです。

以下の特許明細書の内容も踏まえながら、この製品の特徴を解説していきます。

【公開番号】特開2025-104980(P2025-104980A)
【公開日】令和7年7月10日(2025.7.10)
【発明の名称】マットレスの下に挿入される体位調整具および体位調整具用シート


【公開番号】特開2025-104967(P2025-104967A)
【公開日】令和7年7月10日(2025.7.10)
【発明の名称】体位調整具

解決しようとする課題

●体交枕にはくさび形など様々な形状がありますが、利用者の背中に直接当てると違和感がある場合があります。

●また、マットレスの下に挿入して使うと、形や大きさによっては体位が大きく変わってしまい、ずれが発生することがあります。

●利用者一人ひとりに合った枕を作れば解決できますが、コストがかかり現実的ではありません。

●体位交換は自力で体を動かせない人へのケアであるため、介助者の負担が大きいという問題もあります。

●体交枕を引き抜く際には、患者の衣服やシーツが摩擦でずれ、それを直す手間が介助者にかかります。それは利用者にとっても、不快感や皮膚障害、痛みの原因になります。

使用方法と特徴

使い方:

こちらのクッションは、主にマットレスの下に挿入して使用します。

画像引用元:https://www.paramount.co.jp/series/3/3000337

分厚すぎない設計

一番高い部分が20〜80mmとなっており、必要以上に厚くならないため、利用者は違和感の少ない体位で除圧できます。

分厚くない分、介護者も持ち運びや挿入がしやすくなります

大きすぎず小さすぎない傾斜角度

体を支える傾斜角度は6〜9度で、効果的に除圧できる体位になるよう設計されています。

また、首側と足側の傾斜も、それぞれの部位が楽な姿勢になるよう工夫されています。

角度が大きすぎないため、マットを大きく持ち上げた際の圧迫や、就寝中に利用者を起こしてしまう負担も避けられます。

適度な硬さ

硬さは200〜700Nとなっています。

この「N(ニュートン)」は力の単位で、数値が大きいほど押し返す力=硬さが強くなります。

ここでは体圧分散と快適さのバランスのよい範囲に設定されています。

適切な位置への挿入のしやすさ

クッションの端をマットレスやベッドの端に合わせて挿入することで、適切な位置にセットできるようになっています。

そのため、介護経験のない方でも効果的な体位にすることができます。

さらに、体位調整具用シートあるようでそれを敷くことで、挿入位置がよりわかりやすくなります

引き抜きやすいスライド部構造

クッション本体と別に動くスライド部が付いており、引き抜く際にまず本体だけを取り出すことができます

画像引用元:特開2025-104967より一部加工

クッション本体をマットレスの下から引き抜くと、このスライド部はマットレスの下に残りますが、その後薄い布の分だけマットレスをわずかに持ち上げるだけで、簡単に引き抜くことができます

この仕組みにより、シーツまで一緒に引き抜かれることがないため、シーツの乱れを直す手間をなくし、利用者の不快感やずれによる皮膚トラブルのリスクを減らすことが期待されます

消毒可能:

カバーは耐薬品性が高く、次亜塩素酸ナトリウム(1%)を使い消毒が可能です。

また、汚れが付きにくく、拭き取りやすい撥水加工が施されています。

現場で活用できるか

●私自身の経験ですが、厚みのあるクッションをマットレスの下に入れると、マットごと大きく傾いてしまい、理想的な体位を作るのが難しくなります。

そのためか、実際の現場でこの方法を行っているのはほとんど見かけません。

しかし、このやや平たく薄めのクッションであれば、ちょうどよい角度に調整できそうです。


介護 ポジショニングクッション バナナフィット スモールフロータイプ パラマウントベッド 介護用クッション 体位変換クッション

●現場では、重い利用者さんの体位交換を一人で行わなければならない場面も多く、その際に体の下にバスタオルを敷くことがあります。

タオルごと体を起こせるため便利ではありますが、しわやよれができやすく、かえって褥瘡の原因になるなどデメリットもあります。

重い方の場合でも、マットレスを少し持ち上げるだけでクッションが挿入できれば、バスタオルを敷く必要はなくなります

●体圧分散性能の高いマットレスを使っていても、中綿のクッションで体を支えると、せっかくのマットレスの効果が十分に得られません。

この方法ならマットレスの機能を活かしつつ、体位交換が可能です。

●マットレスによっては重みがあり簡単に持ち上がらないため、この方法が使えない場合もありそうです。

また、厚みのあるエアマットなどでは、下に敷くクッションの効果は得られにくい可能性があります。

●このクッションは体を傾けるためだけでなく、反対側の骨盤部あたりに挿入することで、30度側臥位で問題となる大転子部のずれを支える面を作ることもできるかもしれません。

●定位置に挟む、というシンプルな使い方なので、介護経験の少ない人が在宅などで効果的に体位交換するのに有効だと感じます。

おわりに

正直、ポジショニング用のクッションには、万人にぴったり合うものはないと思っています。

なぜなら、人によって体格も、麻痺や拘縮の程度も、どれくらい動けるのかも全く違うからです。

今回ご紹介したクッションは、私自身まだ実際に使用した経験はありませんが、今後、ポジショニングを工夫する際の選択肢の一つとして検討したいと思います。

現在、看護師としての現場の視点と特許知見を活かし、医療材料やケア用品に関する情報発信や記事執筆、市場展開支援などを行っています。

ご興味のある方は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

※本記事の内容は参考情報であり、正確性を保証するものではありません。
製品の購入や使用はご自身の判断と責任でお願いいたします。

参照

特開2025-104980(P2025-104980A)「マットレスの下に挿入される体位調整具および体位調整具用シート」公開日:令和7年7月10日(2025年7月10日)、パラマウントベッド株式会社

特開2025-104967(P2025-104967A)「体位調整具」公開日:令和7年7月10日(2025年7月10日)、パラマウントベッド株式会社

岡庭豊『病気がみえる vol.14 皮膚科』第1版、2020年、株式会社メディックメディア

小川鑛一『イラストで学ぶ 看護人間工学』2016年、東京電機大学出版局

日本褥瘡学会 https://www.jspu.org/general/prevention

パラマウントベッド株式会社 https://www.paramount.co.jp/series/3/3000337

わくわく直観堂 https://waku2chokkan.com/websem13-30risk

タイトルとURLをコピーしました